86.傍若無人はスターの特権。
「えらい鼻の利く女やなあ!」
同じく宙に投げされていた裁は挑発的な笑みを草壁へ寄越すと、私の肩を掴んで地に落とすように押し退ける。
「おい……!?」
地面から何本もの
先に落下が進んでいる私はそれを捉えながら、慌てて身を捩った。夾竹桃の一本が私の脇腹を掠め、ボタンが彼方へ吹き飛び前が開いたブレザーがはためく。
辺りを過ぎ去る夾竹桃らを追うように、棺に閉ざされた空を見上げて裁を探す。夾竹桃の先端が、吸い込まれるように裁へ迫っていた。
この夾竹桃の毒は、〝魔の八丁荒らし〟にも効く。毒を吸う事になるが、吠え声で草壁諸共夾竹桃を吹き飛ばすか。
逡巡しながらも胸一杯に空気を吸った途端、裁は煙へ姿を変える。掴み所の無くなった裁の身体を夾竹桃が通過していくと、姿を人に戻した裁の
その残骸が降り注ぐより速く、草壁は足場にしている槍のような夾竹桃の先を私達へ振り落とす。草壁が立つ夾竹桃は残骸を巻き込みながら先端を顎のように広げ、蛇みたく私達を飲み込んだ。葉の緑と花の淡紅色、枝から滴る赤が毒々しく視界を覆い、強烈な寺の匂いが喉を焼きながら流れ込む。
「『一つ頭のケルベロス』」
目が眩むようなそれらの色を、墨のような黒の一撃で両断した。辺り全ての夾竹桃が薙ぎ払われ、センターの瓦礫を巻き込み空高く打ち上がる。
だが魔法を壊す魔術である『一つ頭のケルベロス』では効きが悪い。攻撃範囲を伸ばす為に出しただけで、実際に夾竹桃を払ったのは悪魔
迫る地面を尾で殴った。身を跳ね上げて作った滞空時間で姿勢を整え着地する。だが膝が抜け思わず身を折った。堪らず『一つ頭のケルベロス』を杖のように突き立て凭れかかる。
今ので大量に毒を飲んでしまった。毒液で真っ赤に染まった身を、激しい頭痛と悪寒が襲う。自殺してリセットすればいい話だが、こう毒を受ける度にリセットを挟んでいればいずれ隙を突かれてしまう。こうなるのが嫌でまだ受ける毒の量を抑えようと吠え声で払おうとしたのに裁の奴は……!
「クソ……!」
落下して来ていた裁が私と向かい合うように着地するなり、まだ遥か上空で投げ出されている瓦礫と夾竹桃の残骸へ振り返る。
「邪魔なんよ」
その面倒そうな呟きが合図のように、上空の瓦礫と夾竹桃の残骸が
裁は続けて、砲撃により街から抉り取った瓦礫を
〝館〟で見せていた
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