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81.幸運なんて知らないね


「まあ、失敗したんだけどな」


 終わりが近づいて来た記憶を辿りながら、私は続ける。


「帯刀を〝患者〟にする期限は七ヶ月。正確には、今年の四月から十一月の、文化祭の直前まで。この期限を決める事も含めて、暫く話し合いをした後に実行した。ギリギリまで親御さんを待って、もし駄目だったとしても、文化祭で気を紛らわせるからいいんだとさ。後は時間が来るか帯刀の親御さんが来るまで、私が黙っていればいいだけ。周りの魔術師に魔法使いを逃した能無しと罵られるのは、いい気分では無かったが大して気にもならなかった。直にこいつらの、クソ親父がいなくなった今の実力が知れる。案の定だ。何も出来やしない。所詮は口先だけの連中だったし、帯刀の親御さんも来ないままだ。このまま期限が来て帯刀の魔法を解いて、駄目だったよって言ってやれば、後は好きなだけ泣かせてやって、宥めて終わりだったのに。ままならないものだよな、魔法使い。まさか実行日と同日中に、お前と美術館の魔法使いが侵入したなんて。咄嗟の事だったから他の魔術師への侵入の証拠をでっちあげる為に、帯刀を襲ったのはお前らのどちらかという作り話で伝えたが、私には気付いてたぜ。実行日に対峙したあいつは美術館の魔法使いだ。〝館〟で戦った時のお前は、私の手の内を何も知らなかったからな」


 じっと私の話を聞いていた裁は目を見開いた。


「知っとったんか? 美術館の魔法使いが誰なんか」


「ほんの一瞬だよ。姿を捉える暇も無かったし、あれは多分、お前を妨害しようとした所に偶然私と帯刀が居合わせたんだ。帯刀に魔法をかける所を誰かに見られる訳にはいかないから、街の中でも閑散とした場所でやったんだが、たまたまあいつがそこにやって来たんだよ。私に気付いて魔法を引っ込めるとすぐに消えたが、その手段も魔法だった。パッと手品みたいに、サッパリ見えなくなっちまったよ。〝患者〟にさせたばかりの帯刀が側にいる手前派手には暴れられないから、他の魔術師に魔法使いが来たって分かりやすく伝える為に、私が魔法を使って辺りを軽くぶっ壊した。もし美術館の魔法使いに当たればラッキーだったが、駄目だったよ。騒ぎに気付いた他の魔術師が飛んで来てすぐに『鎖の雨』を降らせたが、今日まで行方は掴めず仕舞いだ。お前を〝館〟に封じるというあいつの目的は、私が手伝う形で叶えられたけどな。お陰でこっちにとっちゃあ、存在しない筈だった魔法使いが本当に現れた事になって、ただ時が来れば帯刀の魔法を解けばいいって話じゃなくなっちまった。もし帯刀の両親が帰って来てもお前らとの戦いに巻き込まれて死んじまうかもしれないし、文化祭だって開催の危機だ」



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