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72.完璧ドール
「そもそも私が全力で戦えないのは、外野が多過ぎるからだからな」
頬杖を突いたまま返す。
「〝館〟で裁を仕留め損ねたのもその所為だ。〝患者〟の瓶の強度は凄まじいし、私の魔術の性質上巻き込まれにくいとは言え、やっぱり限界がある。もしあそこが更地だったなら、最初から『一つ頭のケルベロス』を明かして殺してた。あれは元々、父が遺した魔術なのも知ってるだろ。戦力不足なんかじゃなかった。父が戦う時いつもモトロで被害をカバーしてくれてた、お前の親父さんみたいな役が付いてくれれば、裁は
鉄村はそれ以上無いってぐらいに目を見開いて、真っ青になって動けなくなった。私は今更、その程度では心を傷めない。
鉄村が堪らず目を逸らした視線を、執拗に追いながら問う。
「この行いに正しさがあるなんて思ってない。だがお前らに私を責める権利が、私を止められる力が、一体どこにあるんだよ。飼い殺しが精一杯の、常人振った人でなし共が」
瞬きなんて
頬杖を突いていた右手を、捨てるように下ろす。憎悪に熱を帯びる視線は景色を赤色に染めるようで、その逸らしたまま合わせて来ない鉄村の目を突き貫く。
都合がいいのはお互い様じゃないか。私とお前は一体何が違うんだ。何を以て私の方が、問題があるように接するんだ。
両手で支えた上体を突き出すように乗り出して、這うような低い声で吐き捨てた。
「……あの忌々しい役者女諸共、今すぐ地獄に打ち落してやろうか」
開きっ放しのメール画面に、受信の通知が入る。簡易表示された受信メールの件名と、本文に目を走らせたのは数瞬。ただそれでも、たったそれだけの時間を、永久の猶予のように利用し尽くしそいつは現れた。
今し方まで上等なガラスケースに収められていたような清浄さと、そこに収まるものに相応しく浴びて来た寵愛を纏い。ガラス越しであろうと目にした者を魅了し続けて来たのだろう、有無を言わさぬ完璧な美貌を放ち。されどそれを押し退けるように薄闇の中見開かれた目は、私の心臓を潰すような圧を放って。
そいつは私が壊したドアから蛇のように身を滑らせ鉄村の背後に立ち止まると、大きな背中から幽霊のように右半身を覗かせる。その立ち位置は下手な真似をすれば、今にも鉄村を殺すと脅迫していた。郵便物から鉄村の目を逸らそうと点けた玄関の明かりを微かに受けて、輪郭が浮き上がっている。
一際鮮やかに光を受けるボルドーのメッシュに、矢張り目を奪われてしまいながらその名を呼んだ。不健全な笑みに、歯を覗かせて。
「待ち侘びたぜ、文字化け作家のゴーレム」
鉄村の背後に現れた、本物そっくりに作り上げられた
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