62.底無しの腹の内
鉄村のスマホには、その日バズった投稿について纏めたニュースサイトが表示されていた。
今日の閲覧数ランキングのトップに、「文字化け作家、〝不吉なる芸術街〟の魔術師に顔出し映像で訴えられる!」との記事が、二番手の記事に千倍もの閲覧数を付けて掲載されている。目を通してみるが、タイトル通りの内容がダラダラ続いているだけでそれ以上の内容は無い。
鉄村は私を落とさないよう抱え直した。
「これなら文字化け作家も反応してるかもしれねえ。裁や他の魔法使いは一旦親父達に任せて、俺達でこいつの真相を確かめよう」
「……今すぐにはちょっと無理かな」
スマホを持つ手を前へ伸ばして、肩越しに鉄村へ返す。
「え? 何で?」
振り返った鉄村は横顔を向けた。
「私のスマホ絶対に壊れてる。アカウントのメアドとかパスワードとか、家のPCに保存してるから帰らないと見れない」
〝館〟であれだけ暴れ回ったのだ。取り出して確かめる気も起きない。
鉄村は、太い眉をハの字にすると前を向く。
「あー成る程……。なら、一旦お前の家行こう」
「後がいい」
鉄村がスマホを受け取ったのを目の端で確かめてから、伸ばしていた腕をだらりと下ろした。肉塊のように背を滑り落ちていく腕に、鉄村はぎょっとしたように振り返る。
それを瞼が落ちていく視界で捉えると、独り言みたいに小さくなった声で続けた。
「〝館〟に行ってくれないか。大丈夫だろうけれど、
「いーややっぱりまず行くべきはメシだっ!」
鉄村は目をかっ開いて叫びながらジャンプする。
揺らされた私はその不快感と意味不明さに僅かに目覚め、顔を顰めて鉄村を睨んだ。
鉄村は大真面目にピョンピョンジャンプし続ける。
「眠いんならまずメシだ! お前、血がみかんみてえな色だから、病院行っても診て貰えねえんだろ! 食って寝るしか治療法が
それは確かに話したけれど。
無視してやろうかと思うが、私を眠らせまいと繰り返しているアホジャンプを止めたいし、無理矢理背中から下りても絶対に追いかけて来るし、逃げようものなら全方位からのトラテープで捕まえられるので、取り合えず反応する。
「あー……。いや、腹に怪我してて……」
「
鉄村はスマホを操作すると、この辺りの飲食店と検索したのだろう地図アプリに刺されたピンを見せて来た。確かにピンには麵屋
据わった目でスマホを眺める私に、鉄村は続ける。
「食い逃げ犯にはなりたくねえから頼んだぞ!」
「いや私かよ!?」
足元を覆うように噴き出したトラテープがかさぶたのように重なり合い、トランポリンみたく収縮して私と鉄村をぶっ飛ばした。ほんの数秒で麵屋蝦蟇の正面に叩き落され、鉄村に引き
店内は開店間も無い時間帯や街の騒ぎの所為で閑散としていたが、客や従業員はビビットオレンジの血に塗れたコスプレ重傷者にしか見えない私に呆然とするか悲鳴を上げるわ、鉄村はお構い無しに例のデカ盛ラーメンを注文するわでいよいよ逃げられず、嫌々ながらチャレンジする
チャレンジ開始から十分後、麺と具が失せ、三分の一になったスープをレンゲでちびちび飲んでいると、鉄村のスマホに電話がかかって来た。食べろと言われれば結構な量はこなせるが、食事に余り関心が無いからやりたくなかったのに。
「むっ!?」
自分は好きに醤油ラーメンとチャーハンのセットを食べていた鉄村は(殴られたいのかお前)、慌ててお冷を飲むと電話に出る。数回受け答えを交わすと、私にスマホを渡して来た。
「御三家の指示で〝館〟に向かった魔術師から!」
受け取ると鉄村にも聞き取れるように、ハンズフリーにして脇に置く。現地にいる魔術師の声が鳴り出し、裁を食い止めた事へと、〝患者〟の瓶は一切割れていない事へのお礼を告げられた。今は〝患者〟の無事をその家族へ伝える作業に追われているらしい。
食事を止めて耳を傾けていた私は応える。
「ああそうですか」
鉄村はぎょっとして私を見た。
私はレンゲを持ち直しながら、〝館〟に連絡先が記録されている〝患者〟の家族の名前を、記録されてから七ヶ月以内のものに絞って教えて欲しいと告げる。鉄村が異様なものを見るような目を向けて来る中、お経みたいに流れて来る名前を聞き終えると電話を切った。そのまま一分にも満たない調べ物をした後、スマホを返しながら尋ねる。
「美術館から逃げた裁のゴーレム、あれからどうなったか教えてくれないか」
「お前
鉄村は箸を止めたまま、スマホも受け取らないで尋ね返して来た。
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