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59.ウサギとモトロの総大将
私があの小声を聞き取ったのだと分かった
「あんたってほんま気に障る……」
畳んだ新聞ぐらいの大きさをした白いビロードのような塊が、ぴょんと裁の足元へ現れた。上半身をブラックスーツで包む、青い目のミニレッキスだ。絵本に出て来るようなその姿も
「魔法使いと口を利くな。狼娘」
外見からは想像もつかない
「『責め苦のプレゼンター』」
裁は糸が切れた操り人形のように倒れ込む。ピクリとも動かなくなるが顔には動揺が溢れ、目が忙しなく泳ぎ出した。
裁の背中に着地したミニレッキスは前脚で顔を洗う。満足したように目を開けると、氷のような冷感を帯びる泰然を纏い裁を見下した。
「貴様これより、四肢による一切の自由を禁ずる。魔法使いには豪奢が過ぎる進物よ」
この兎は
「ふん。単身でこのような奇怪な魔法使いを追い込むとは。春の失態を不問とするには十二分な働きではあるが、矢張り貴様ら
裁を囲むように地から噴き出したトラテープの群れが、
「ギェエエエ!?」
「おっとっと!?」
トラテープで跳んで来た鉄村が、勢い余って
「これ! 鉄村の坊主! 儂はこの魔法使いの
私の隣まで歩いて来た鉄村は、上貂を見るなりガリガリ後頭部を掻いて笑う。
「いやー悪いな上貂のじいさん! そいつ自分にそっくりな人形を作ったぐらいの職人みたいで、てっきり今度は兎の人形を作ったのかと思ったぜ!」
「
裁を追って来ていた狩人の群れが、私達を囲むように遥か上空から落下した。
「ヒギャア!? ととっ、止まれこの、馬鹿者共っ!」
狩人達は上貂に気付いたのか、また一斉に首を傾げる。
「いや今気付いたとか絶対に嘘じゃろ!」
今度は美術館のある方向の空から、小山ぐらいもあるモトロまで突っ込んで来た。モトロはグラウンドの土を抉りながら裁の側へ着地し、波打つ身体が切った風で、トラテープに縛られた上貂を凧のように躍らせる。強風やら水気を含んだ土やらを浴びせられた上貂は、顔を梅干しのように皺くちゃにさせて目を瞑った。
「いやー助かった! こうも頼り甲斐のある若者がいるとは、この街の将来も安泰だ!」
「状況を教えてくれ! 上貂のドッグタグと、『鎖の雨』の知らせを受けて飛んで来た! 美術館を襲った魔法使いを追ってたんだが、この二つの知らせが飛んで来るのとほぼ同時に、痕跡がさっぱり消えちまったもんでな! 一旦草壁に任せて来たが……。それらの原因は、ここに伏している魔法使いで問題無いか!?」
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