45.怨嗟のオレンジ
少し目を丸くしていた
「何ですって?」
決して動揺はしていない。変わらず己の勝利を確信している。同時に警戒すべき脅威を確認したような緊張を微かに滲ませ、その落ち着きとは油断では無く、絶対的な自信が土台であると明確に示していた。あくまで奴にとっての私とは、何をしようと全てがお見通しに過ぎない弱者だと。
その態度に肩を揺らして笑う。
「カッハッハッハッハッハ」
憑かれているような引き
「おいおい冗談はよせ? よっぽど私を侮ってるか嫌いなのか、お国の言葉が漏れてたぞ? とんでもない事に代々〝魔の八丁荒らし〟に選ばれる程魔法使いに適した人格と才能を持ちながら、貸し出された魔法は
裁は愛嬌たっぷりに笑う。
「へえそうですか。折角ですから剥製にでもします?」
私は肩を竦めて苦笑した。
「それをするにはお前の皮膚に、傷を付けちゃいけない事になる」
「あれ? 最初からそのつもりじゃなかったんですか? いつまでも攻撃が当たらないから、てっきり剥製にされるのかと思いましたよ。ていうか望みを叶えてやるって、悪魔の
私は苦笑を浮かべたまま歯を覗かせ、右の人差し指で自分の腹を、トントンと叩いてみせる。
裁の表情が固まった。
私は
「お前の予想通りここにある。お前の望むような、頭が飛んでも死なない所か元通りに生えて来て、飛んだ方の頭はサッパリ消えちまうような私から、崩れず取り出す方法は無いけどな」
こいつが私に悪魔の
〝患者〟の症状の中に血液の変色は無い。どれ程醜い姿に変えられようと、魔法で血の色は変わらない。瓶の中に収まっている〝患者〟達だって、怪我をすれば赤い血を流す。血の色が変わってしまうのは、悪魔を食った時だけだ。
「父方の祖父が悪魔を食ったんだ」
苦笑はそのままに腹を叩く指を止め、固まったままの裁を見る。
「……もううんざりするぐらい昔の話さ。魔法使いに魔法をかけられ醜い姿に変えられた事に激高し、その場でその魔法使いを食い殺した。それでも気が治まらなくて、食い殺した魔法使いと取引していた悪魔も食い殺した。あくまで〝患者〟にされただけで、魔術師でもないくせに」
裁は息を呑んだ。
私だってこの話を思い出す
「そして乏しい悪魔の知識を元に、食った悪魔の腸全てを使ってこう願った」
決して忘れないようにとさんざ父から聞かされた、祖父の暴言を
「“神も悪魔も仏も、知った事じゃねえ。俺は俺の好きなように生きる。邪魔する奴は皆殺してやる。俺は、怪我にも病気にもならねえで、なるべく元気に長生きして、酒にも食うものにも困らない、一生働かなくていいぐらいの金持ちな、気の利くいい女の家に転がり続けて暮らすんだ”」
だから私の膂力とは激甚で。
だから私の命とは、不死の如くにしぶとくて。
フォロワー数が無に等しいアカウントからの投稿でも、顔さえ出してしまえば必ずバズるぐらいに容姿がよく、出会ってしまえば人間性など度外視させて誰だって魅了して、言いなりにさせられる。
顔も名前も知らない父方の祖父は、こんな浅ましい夢を見た。既にその身は人を離れ、悪魔の力を得てしまっている事も気付かずに。
悪魔
裁はレストランで私の血を見たゴーレムから、私が悪魔喰らいであるとスマホで連絡でも受けたのだろう。遅くても春から〝館〟に潜伏しておきながら今日行動を起こしたのは、この情報が理由の筈だ。『鎖の雨』で魔法使いが入っていないこの七ヶ月間で、私が戦って血を流したのも今日が初めてなのだから。
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