46.きみもわたしもひとでなし


「いやァ悪いな。探せば方法が見つかるかもしれないが、生憎私は三代目でね。クソジジイから血を引いてるだけで、この不死身みたいな身体についての抜け穴なんて何も伝え聞いちゃいない。要は、幾らお前がここの〝患者〟を人質に取ろうと私を攻撃しようと、お前の欲しいものは絶対に手に入らない訳だ。お前は私の攻撃が当たってないと言ったが、お前だって同じようなものだろ? 当たっちゃいるがどれも決定打になっちゃいない。現に私は死んでない。手数だけの火力不足だ。お前こそ降参するのが身の為だぜ。息切れ起こしてジリ貧の果てにやられるのは、名家の最期にしては無残が過ぎる」


「魔術師の同情とは甘言であると、魔法使いの間では決まっています」


 さいは、疲れたように目を伏せながら即答した。


 『鎖の雨』が降る以前、つまり、七ヶ月以上前から狙いを定めて来た悪魔のはらわたを目の前にしながら、それが手に入らないと分かった直後とは思えない程冷静に。そして一切の間を置かず目を開けた頃には、疲労感さえも消して言葉を継ぐ。


「火力不足と言いましたがこれが私の全力であると言った覚えはありませんし、追い詰めれば〝患者〟を顧みない戦法を採るだろう事は想定済みです。その言葉は脅しとしてなっていませんし、無残と言うならあなたこそですよ。天喰あまじき先輩」


 私の解を採点する先生みたく諭すような調子で告げると、息を継ぐのか言葉を切る。かと思えば今し方まで静かだった目に、刺すような冷たさを孕ませて私を見た。


「疑似的な悪魔のはらわたとは言え、数を揃えれば純正にも劣りません。丸々一体分用意してしまえばまさに、あらゆる願いを叶えてくれる魔法ですから。なのに帯刀おびなた副部長の魔法を解く為に自分のはらわたを差し出す気はまるで無い。とんだ偽善者です。あなたも存外に畜生で、魔術師よりも魔法使いに向いているように見える」


「カッハッハッハッハッハッハッ!」


 腹に留めるようにぶら下げていた右手を思わず投げ出し、肩をガクガク揺らして哄笑する。


「魔法使いに説教されるとは悪夢的だ! 誰が献身なんてしてやるかよ!」


 肩に振り回されるように揺れていた左手で、堪らず額を覆った。それは余りにおかしくて。


「私を化け物みたいにしやがったクソジジイは、謝罪の一つも残さず死んだ! クソジジイに魔法をかけた魔法使いも、そいつに魔法を貸し出した悪魔もっくにいない! 私がクソ親父と同じ魔術師になったのもクソジジイの所為だ! 私がこれ以上身を差し出さなきゃならねえ理由なんて分からねえな! 魔法使いも魔術師も悪魔も人間も、私は大ッ嫌いでね! あァでも今は気分がいいさ……。殺せば名誉は挽回出来て帯刀おびなたあだも取れるお前が、私以外の誰にも把握されずに目の前にいるんだから!」



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