31.何にも晴れないサイコー気分!
「またシャワー借りないといけねえじゃねえかよ!」
私の頭を切り飛ばした勢いそのまま、背後の地面へ突き刺さった後翅に両腕を伸ばしぶら下がり、地に叩き付けるように根元から引き千切る。
支えを失い、鬱陶しく覆い被さって来る後翅を掴む腕を左右へ伸ばすと、腐る程破り捨てて来た授業参観のプリントみたく引き裂いて、足元を砕く程激しく跳んだ。片翼を
しっかしこの野郎、腹の立つ。それは刹那的な時間だが、首が生えるまでに胴から溢れた血で全身オレンジ色になっちまった。
これはかなり目立つ。周りは血だと思わないから騒ぎにはならないけれど、変な奴が歩いてるって結局ジロジロ眺めて来る。鬱陶しい。こちとらお前らカス野郎の為に命張ってるってのに。
……いや、私は別に張ってると言えないか。一回死んだぐらいじゃ復活するし、首を落とされるなんて致命傷でも何でも無い。
私にとっての致命傷とは、魔術師の仕事を全う出来ない事だ。私は魔術師だけれど街の魔術師に監視されていて、使えない奴だと判断されると殺される。
頭上の私に気付いたコガネムシが、落下して来る私へ片側の後翅を放つ。とは言え、もう裁さんは側にいない。
不健全な笑みに、歯が露わになる。
胴を腹から両断してやろうと迫る後翅を、左手で脇へ殴った。流れて来る後翅を右腕で抱え込み、額まで引き上げる。強烈な力を左右へ瞬間的にかけられた後翅は、根から捩じり切られて吹き飛んだ。
私から滴るビビットオレンジと用無しになって捨てた後翅が、毒々しく空を彩る。コガネムシは、突然電源をOFFにされ直後にONに入れ直された家電みたいに、硬直したかと思うと荒れ狂った。
身体の一部を毟られたってのに叫ばないとは何て静かな。ああそうか。彫刻だから声を持たないのか。道理でわざわざ痛め付けてるのに、ちっとも憂さ晴らしになりゃしない。
「じゃあ派手にぶっ壊されて死ね!」
背を反る程腕を伸ばし、両手を頭の上で固く組む。
コガネムシは六本脚の内、後ろ四本を支えに上体を持ち上げた。残りの二本で私を貫こうと、ザリガニみたいに前へ突き出す。だがその脚の厚みは古木のよう。二本は切った風を咆哮に変え、巨大な槍となり肉薄した。
鋭いその切っ先へ、組んだ両手を打ち落とす。折られた槍の先が視界の外へカッ飛んだ。痛みも無いくせにコガネムシは仰け反ろうとするも、もう既に取っているその姿勢以上身は上がらない。遮るものは無い私はそのまま、最高位で固定されたコガネムシの顔へ落下する。
剥き出しになったその面へ。
幾ら壊しても面白くない、無表情なその面へ。
何をした訳でも無い裁さんを、殺そうとしたその面へ。
そうやっていつも身勝手に、人を傷付けるお前ら魔法使いと違法魔術使用者へ。
蓄積された怒りと苛立ちと、底の見えない憎悪を練和した頭突きをぶち込んだ。
金槌のように振り落とされた額は、コガネムシの上体を打ち落として地を砕き、浮いた尻と脚が宙を掻く。その姿はどう見たって滑稽で、嘲笑せずにいられない。
「だッはははははは!
確かに腹から笑ってるのに、どこかで寂しさが浮き彫りになるのは何でだろう。
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