30.やっぱり正義の味方になんてなれないかも。


 ああ、終わったな。


 迫る後翅こうしに、ぼんやり思う。


 奴はどういう訳だが、私を徹底的に無視して裁さんを狙う。つまり迎撃しようとすれば必然的に、裁さんにべったり貼り付かなければならなくなる。そんな至近距離で片手が使えない状態で暴れたら、確実に裁さんを巻き込む。だから逃げるにしても戦うにしてもまずは、奴から裁さんを引き剥がさなければならない。


 然し意表を突かれ続けて、完全に後手に回されてしまった。正直に言ってしまえば、二人揃って無事にこの瞬間から逃げ出す術は無い。


 ああ。もしこれが私一人なら、三百メートルなんてひとっ飛びで逃げ切れるし、最初から迎撃の姿勢も取れたのに。


 何だって非力な人間一人抱えただけで、八方塞がりみたいな目に遭ってるんだか。幾ら周りを見ても魔法使いは見当たらないし、こんなの前代未聞が過ぎる。一人で対応出来る訳あるかこんなもん。『鎖の雨』が効かないなんてあってたまるか。


 全く、朝から本当にツイてない。


 後翅を見据えたまままばたき一回分の間を置いて、進行方向へ右腕を振るい指を開く。


 車にねられたような速度で投げ飛ばされようとする裁さんの足元に、刺すように左足を放った。蹴られたポテトマッシャーが飛んで行くのを足の感覚で確かめながら、迫る後翅と向かい合う。


 瞬き一回分置いた時間がここで活きる。ついぞ裁さんに思い当たる節を尋ねる事は出来なかったが、やたらと彼女を狙う彫刻共だ。ギリギリまで側に置いた裁さんを一気に遠ざければ、一時的にだが奴らを私に集められる。


 うに視界から失せた裁さんの行き先は、出入り口付近の植え込みだ。ビルの四十階から飛び降りて自殺を図るも、植え込みに落下した所為で失敗した人のニュースを見た事がある。無傷では済まないだろうが地面に投げ付けるよりよっぽどましだし、お陰で何とか遠ざけられた。あとは彼女の足が、折れないのを祈るしか無い。


 つまり、振り返りながらギリギリまで彫刻共の狙いを引き寄せるという事は、私自身は向き直った瞬間に、裁さんの代わりに後翅を浴びるという訳で。


 躱しはしない。そうすれば、後ろでただ吹っ飛んでいる最中の裁さんに当たってしまうから。囮になって、正面から奴らの攻撃にブチ当たる。これが裁さんを逃がす為の、今出来る最善策だ。


 要は私は、今から死ぬ。


 別にいいけれど。


 そんな執着の無い事言っていいのか。帯刀の仇の魔法使い、まだ見つけられてないだろ。今日だって放課後は、街を歩き回って手がかりを探すつもりだったじゃないか。


 仕方無いさ。だってこうしないと、裁さんを助けられない。


 小さい頃からずっと一緒だった帯刀より、二学期に知り合ったばかりの他人を取るのかよ。


 今朝、チラシ配りの女性も、私も助けようとしなかった、野次馬と通行人みたいな事言うんだな。あんな奴らになるぐらいなら、生きてても死んでても同じだろ。


 あの、熟れたトマトが複数個潰されるような人体の破壊音が、喉元から上がッ



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