27.君こそ一体何なんだい?
まさか君が? なんて言葉、すぐに出ない。
だって、彼女が魔法使いだっていう証拠が無い。こんなのただの当てずっぽうじゃないか。
そんな悠長な事を言っているから
分かってるのか。お前は友達を助け損ねたんだ。今も助け損ね続けてるんだ。七ヶ月間も。失敗したくないのなら、その女を逃がすのではなく捕まえろ。
体裁の為に魔術師になったなんて、私は一度も言ってない。
裁さんと目が合ったその
その瞬きを許さない猛進の行き先を捉えた私は、ネイルハンマーを目で追いながら右腕を背後へ放ち、裁さんの肩を突き飛ばした。
一切減速せず降下するネイルハンマーは、私の眉間を打ち抜くように迫り来る。その軌道を視認出来ていたから、巻き込まないよう裁さんを突き飛ばして遠ざけた。先手を打った私は右足で踏み込んで、ネイルハンマーを捕まえようと左腕を伸ばす。
指がかかる間際でネイルハンマーは、私の左側腹部に回り込むような鋭いカーブを描いてすり抜けた。
血の気が引く。
このままならどうなるかという、暗い思考が見せる未来にじゃない。
ネイルハンマーが私の動きを理解した上で、裁さんを攻撃するよう軌道を調整した動きにだ。
発狂したように逃げ回る店員を追えたのだから、カーブを加えるぐらい容易だろう。だがこんな惨劇の中で動揺を見せず、逃げ出す所か他者を逃がす姿勢を見せながら対峙して来る人間を、あのネイルハンマーの持ち主はどれだけ見た事があるだろうか。
そんな行動に出る人間の種類は決まっている。馬鹿かお人好しか魔術師だ。その中で最も冷静な態度を見せるのが魔術師であり、同時に魔法使いとは優秀である程、相手が魔術師であるかをより少ない情報で見抜く。『鎖の雨』を掻い潜るような魔法使いが、そんな事も分からない筈が無い。それでも私を魔術師と見抜いている上で、狙う相手を私ではなく裁さんから決して変えないというこの態度が恐ろしいのだ。
あくまで一般人に過ぎない違法魔術使用者に、魔法使いのような観察眼は備わっていない。もしこの犯人が違法魔術使用者である場合、事前に私が魔術師であると知っていた事になる。
まさか今朝のぶよぶよマンには仲間がいて、奴から私の情報が漏れた? いや、すぐに警察に預けたからそんな暇は無い。それとも奴の仲間が野次馬の中にいて、私を見ていた? 魔法使いは『鎖の雨』で暫く相手をしていないが違法魔術使用者なら日常的に捕まえているので、恨みを買った相手は山のようにいる。
いやだから、それなら私を狙うだろう。魔法使いや違法魔術使用者が、魔術師の私を無視してまで彼女に
背後へ回り込んだネイルハンマーは、裁さんの額をかち割ろうと肉薄する。
答えも仮説も出せないまま、振り回されるように胴を捻って振り向いた。だがネイルハンマーは、腕を伸ばした程度で届く距離にもういない。
ならばと更に胴を捩じりながら、背後へ踏み込むように左足を引く。そのまま最早反射的と言っていい速度で、左手を指先まで伸ばし切った。風を切って追い上げる私の左の手の平が、裁さんの眉間を打ち抜こうとするネイルハンマーと既の所でぶち当たる。
ネイルハンマーは、私に突き飛ばされてよろめく裁さんの頭上へ跳ねると天井に突き刺さり、釘抜き部分に抉られた私の左手は親指を残して裁さんの肩を越え、割った窓の向こうへ吹き飛んだ。ぶちまけられた血が、全く追い付いていない反射速度で悲鳴を上げて屈み込む裁さんを殴り付ける。
激痛で額に脂汗が滲む中、目で追い続けていたネイルハンマーへ跳んだ。グリップを右手で掴んでぶら下がるように引っこ抜き、側のテーブルへ落下しながら握り締める。足がテーブルに着くと同時にネイルハンマーは、呆気無く砕け散った。黒御影の破片と化したネイルハンマーと左手の血が辺りに零れ、何かが破片の中から出て来て手に残る。
目をやると、帯刀が私と鉄村にプレゼントしてくれた文字化け作家のストラップに付いている、あの白い小石だった。
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