第11話 幼馴染の優等生
律紀、神名部、小春の三人が立ち去った後。
東校舎二階の渡り廊下前で健は地べたに尻をついて、神名部から浴びせられた数々の言葉をしみじみ心に響かせている時のこと。
「健? 何してるの?」
そんな、健からしてそう呼ぶ者は一人しかいなく。
健も、すぐにその馴染んだ声で誰かを大凡理解して。
「⋯⋯葉月」
と、健が後ろを振り返ると、辞典までとは言わないが、それぐらいの分厚いノートを胸元で抱く葉月が、健の顔を伺おうと重心を少し前のめりに傾けていた。
葉月は健の幼馴染で、今は新聞部副部長として所属してはいるものの、生徒会までにも所属しているザ優等生の女子高生。
学校では周囲からの評価は高く、あまり彼女を嫌うものは少ない。というかいないに等しい。
が、そんな何でも持っていて何でもできる一面がある葉月だが、健の前では母に近い姉のような存在だった。
幼い頃からそれは変わらず、だから今こうしてすぐに健に駆け寄ったのだ。
「って、なんで涙目なの⁉︎」
「いや、べ、別に泣いてるわけじゃないよ⋯⋯あくびだよ」
「はいはい泣いてたんだね。まぁ事情は聞かないけど、今度からはちゃんと嫌なことは言うんだよ? わかった?」
「っはい⋯⋯」
やはり幼少期からの幼馴染は別格。
息を吸うかのように健の心情なんてお見通しのようだ。
「⋯⋯それで、葉月なんでここにいるの?」
「これ、生徒会の資料。ほら、一ヶ月後に『一年生歓迎の会』あるでしょ? それの日程とか準備道具とか色々あってさぁー」
「そうなんだ。忙しそうだね」
「まぁね」
そんな普段通りの会話が途切れたと共に、よっこらせと健は立ち上がり、パタパタと制服を整える。
あと、カメラもちゃんと持って。
「じゃあ俺行くから、また明日⋯⋯って言っても葉月と会えるのそんなにないんだけどね⋯⋯」
一年生の頃から葉月は生徒会に属していて、中々放課後でも会う機会はない。
それに、健は二組、葉月は三組と、そもそもクラスが違う時点で放課後以外では会えないのだ。
「うん、わかった。また明日⋯⋯ね」
「それじゃあね」
最後の葉月の言葉には、どこか戸惑いがあった。
それは、もっと話していたい、という気持ちだ。
同じ学校とはいえ、会う機会はなければ、話す機会も顔も見合わせることもほとんどない。
だから、なんだろう。
一歩ずつ遠のいて去っていく健の背中を見据えては⋯⋯
葉月はどこか、切ない表情を浮かべ、肩幅らへんで小さく手を振り、見送っていた。
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