12月25日
次の日、朝起きてリビングに行ったら、クリスマスツリーの下にきれいなラッピングのプレゼントが置いてあった。わーいって喜んで、お父さんもお母さんも笑ってて、開けてみたらかわいいお財布だった。自分じゃちょっと高くて買えないから、すごい嬉しい。
だから午後、さっそくカバンにそのお財布を入れて、別になんか買うわけじゃないけど駅前に行こうかなって家を出た。空は明るかったから、なんか気分もよくて、行宏さんの家の近くにだって、どうせ会えないやって、行っちゃえって、でも、そしたら、なんで? 会っちゃった。タートルネックの白いセーター。昨日の雪なんかよりずっとぴかぴかの白。すごい似合っててかっこよくて、嫌だ。行宏さんはすぐわたしに気づいた。
「あれ、久しぶりだね」
「あ……はい、その、お久しぶりです」
すごいちっちゃい声、最悪、なんか、顔がすっごい熱いのに、頭は変なぐらい冷えてる気がする。行宏さんは前会ったときと全然変わんない優しい顔で笑ってる。すごい好きって思って、あ、また心臓が痛い。
「プレゼントはもらった?」
「……はい。一応、もらいました」
「よかったね。なに、もらったの?」
「お、お財布……を。あ、あの、これ……です」
なんとなくお財布を見せちゃったけど、そんなの絶対興味ないじゃんってすぐ後悔した。でも。
「へえ、かわいいね。似合うよ」
「あ……ありがとうございます……」
なんで行宏さんはこんな優しいんだろ? 好きって言いたい、って思った。でも、少女マンガだったら今はクリスマスの夜で、触ったら溶けるぐらいの雪が降ってて、二人はキラキラのイルミネーションの前にいて、好きですとか言ったら世界ごときれいに光るのに。
「……あの」
なのに、あーもう、ばかみたい。
「与野井さんって、お名前、なんていうんですか」
なに名前なんかきいてるの?
こんなに空は晴れてて、雪は道路の上で溶けて灰色で、もう全部、なんにもうまくいかない。ばかみたい。ばかみたい。ばかみたい。せめて、せめて桂木行宏だって言ってほしかった。でもやっぱりそれもうまくいかなかった。
「行宏、だよ。与野井行宏っていうんだ、僕」
なにそれ? ずっと一滴も出てこなかった涙が今ここに全部あふれそうになって、でもわたしは上を向いて目を細めて強く強く歯を噛んで必死でがまんした。そうするしかなかった。そうしなきゃいけなかった。
でももうなんかいいやって思った。こんなふうにこれからもたまに行宏さんと会ってちょっと喋れたりするんなら、もうそれだけでいいやって。
「……それじゃあ——」
ちょっとおじぎをして、また、って言おうとしたけど、それより先に行宏さんはにっこり笑って言った。
「うん、じゃあ、さよなら。元気でね。」
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