7月23日
中間テストはまあまあ。みいちゃんと同じくらいで、二人とも学年の真ん中らへん。明日から夏休み、って来週には夏期講習で結局学校だけど、とにかく終業式の日。午前で終わりだから、とりあえず三時からみいちゃんの家で遊ぼって決めて、急ぎ足で家に向かって歩いてた。急いでても一応与野井さんの家には寄ってみちゃう。そしたら、あ、ちょうどドアが開いて出てきた! 一気に心臓がどきってした、そのとき。
「ユキヒロ!」
え? って思うより早く、与野井さんは道の向こうからそう呼びかけてきた男の人のところに走っていった。そのままなにか喋ってるのが見えて、それからいったん家に戻ったと思ったらすぐまた出てきて、その人とどこかに行った。
アロハシャツみたいな派手めのシャツを着てて、与野井さんよりちょっと背が高くて、たぶん与野井さんと同じぐらいの歳のその人が誰なのかより、さっき聞こえたのって与野井さんの下の名前なんじゃないのってそればっかり気になった。
ユキヒロ。ユキヒロ、っていうんだ、与野井さん。与野井ユキヒロ。どういう字で書くんだろ? 理由はわかんないけどすごい嬉しい気がした。ユキヒロさん。与野井ユキヒロさん。なんか、当たり前かもしれないんだけど、すごい似合ってる名前だって思う。
暑かった。夏だから、ってそれもそうなんだけど、もう絶対これ、わたし、ユキヒロさんのこと大好きなんだなって、だってほんとに熱い! もうなんか、わあって叫んで家まで全力で走れちゃうくらいエネルギーみたいなのが体の中でいっぱいできてる感じで、今、すごい元気。
でも本当に走ったら結局疲れた。お母さんはわたしの真っ赤な顔を見て「すごい日焼けしたね」ってびっくりしてた。
着替えて、お昼のそうめんを食べて、二時半くらいだけどもうみいちゃんの家行っちゃおって自転車に乗った。
インターホンを押したらすぐ直接ドアを開けてみいちゃんが出てきた。クーラーで冷え冷えの部屋でぶどうのジュースをもらって飲みながら、部活とか夏期講習のスケジュール表を見て遊ぶ予定を立てる。もちろん遊ぶだけじゃなくってこの日は一緒に課題やろうねとかも決めるけど、やっぱり最初はプールに行く日の予定から決めちゃう。夏だし。
で、だいたい夏休みの予定を立て終わったら、話題はなんとなくユキヒロさんのことになって、下の名前がわかったって話したらすぐみいちゃんは一人で盛り上がる。
「やったじゃん! 一歩前進じゃん」
「別に直接教えてもらったわけじゃないし、わかんないよ、聞き間違いかもだし」
「そんなの聞き間違わないでしょ。だいじょぶだって」
持ち上げたジュースのコップの中で氷がころころ鳴る。コップについた水滴で手が濡れた。
「じゃ、るみちゃんの夏休みの目標ね、ユキヒロさんと喋ること!」
「そんなの、会えるかわかんないし」
閉めきった窓の外からうっすら蝉の声。絶対会えるって、って全然理由もないのにみいちゃんは適当だなって、でもなんか心強いなって思った。
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