第52話・いつの間にか主戦力となった少女

 そして洞窟内では、ここ数日の昼夜問わずのゴブリンとの闘いで集中力が途切れて守りが薄くなった場所をゴブリン達の数の暴力で突かれ、避難民の中でも重傷で動けず意識のなくなっていた自警団の数人が連れ去られてエルダーゴブリンジェネラルの犠牲となっていた。


「オルソン君!もう少し後方で道幅が狭い場所に陣地を造ってくれ!誰かオルソン君を手伝ってやれ!」


「後方の道幅の狭いところですね?了解です!」「分かった!おやっさん!」「うっす!」


「よーし新米共!もうオムツは取れたな!パスカル君も大丈夫かね?」


「うっす!いけます!」


「問題ない……弓矢の補給も出来た。まあ……粗悪品で毒付きだが……」


「よし、みんな!交代で休め!エレノから応援は必ず来る!今しばらくは持ちこたえよう!」


「うっす!」


 そしてエレノからの斥候部隊もエルダーゴブリンジェネラルとゴブリンシャーマンの合流を目にし、避難民や生き残りの斥候隊員の情報を持ってエレノまで後退していく。


 そんな中、森の中ではスローライフ集団の黒狼団が臭い草の絞り汁を木々に塗布しつつ、絞り切り乾燥した臭い草を香代わりに焚いて拠点にモンスターを近付かせないようにしていた。


 この全体で七十名程の団員は各自がゴブリンと互角以上に渡り合える位には位階が高く、スローライフに必要な各種多彩な技能を習得しており、劣悪な環境である魔物の森で生活している割に長閑で緩い。


「おーい。臭い草の絞り汁は撒いたか~」


「おう、ちゃんと撒いたぞ~」


「ダナハの旦那は何処だ~?」


「団長は男爵婦人と部屋でお楽しみだなぁ〜」


「うんだ、団長は毎日元気だなや〜」


「ま、いっか。困った時は団長達にも闘ってもらうべ〜」


「うんだうんだ。そうすんべ」


 そこに現れた珍客の男爵婦人が黒狼団長である巨根のダナハに一目惚れして拠点に居付いてしまう。無表情の二人の若い奴隷を連れて……。


 黒狼団の団長の二つ名は巨根のダナハと呼ばれる位にアレが大きい。そしてダナハ自体も魔物の森で永くスローライフを守る為ゴブリンと戦い続けた結果、位階が異常に高く、全身筋肉ムッキムキながらも見た目スマートなダンディなオヤジであり、静かな森のスローライフをこよなく愛す森男だった。


 後に、この集団も直接ではないがエレノ攻防戦では役に立ったと言われている。


そして舞台はエレノへと戻るが……


 ゴブリンジェネラル襲来から4日目、ゴブリンジェネラル率いるゴブリンの大群はエレノの町に来る事なく、この2日間はゴブリンによる被害も無く、しかしながら、エレノの町はゴブリン襲来の恐れがあり、ある程度は緊張感のあるなかでも平和な日常を過ごしていた。


 4日間待機させられるだけの冒険者達は既にやる事も無く、延々と町中の道を守備して暇を潰し、アリシアも傷薬やポーションを量産しながら暇を潰していた。


 しかし、エルダーゴブリンジェネラル達は何もしていない訳では無かった。別のゴブリンの大群と合流して、名もない村の避難者達を切り刻んで血祭りに上げ、戦意高揚を図っていたのだ。


 そして、アリシアはエレノの兵長を掴まえて東の洞窟内に囚われた仲間達の救出を嘆願している。


「お願いします!みんなを助けて下さい!」


《アリシアよ……そう無理を言うものではないよ》


「うーん、魔法使い殿には申し訳ないのだが……現状、王都に救援要請の早馬を毎日出してるんだが、おそらく応援が来たとして早くて6日後。遅ければ十日や二十日はゴブリンの侵攻を我々だけで防がなければならないんだ。エレノに兵士は少ない。打って出るだけの兵力は無いんだよ」


「それなら、私が魔法で!」


《アリシアよ、少し冷静になれ……お前、この四日休んでも名もない村から無理をした全身の疲れが癒えていないよな?小さな身体にそぐわぬ力を出したのだし全身のいたるところが悲鳴を上げているぞ?それはポーションや治癒魔法でもなかなか治らんだろ?相手は五千のゴブリンだぞ?数の暴力に個では勝てん。特に今のお前はな》


(でも師匠、みんなが!)


「魔法使い殿、魔法だけで五千のゴブリンが倒せますかな?相手にはエルダーゴブリンジェネラル以外にも上位種がおるのですぞ?今、魔法使い殿がエレノを去れば、エレノの町は灰燼と化します。どうか、ご自重をお願いします」


「私が去れば町が滅ぶ?」


《だろうな。相手は五千……厚い厚いと言っても、たかが八メートルの壁など直ぐに破壊されるだろう。東や南の壁はともかく、北や西に回り込まれたら終わりだぞ?》


「そうです。魔法使い殿はエレノ防衛の要です。毎日供給される良質な傷薬にポーション、怪我をした兵士達を癒やす聖女の如き医療技術、そして恐るべき攻撃魔法の御力によってエレノの民は安心出来るのです。確かに洞窟に囚われた避難民のお仲間も大事でしょう。しかしながら、エレノの民一万人の命運は貴女が握っておるのです。重ねてお願いいたします。どうか、ご自重下さい」


「私はどうしたら……」ポト……ポト……


《今は自重するしかあるまい?お前、仲間数十人を救う為にエレノの一万人を犠牲に出来るのか?しかも、仲間を必ず救える算段もなく体調も悪かろ?》


「魔法使い殿、我等も東の洞窟に囚われた仲間を救う為にあらゆる努力をいたします。それに、先日避難民探索に送られた斥候部隊百五十名の全てが死んだ訳ではありますまい。また、森の黒狼団にも協力して貰いますので……何卒、自重願います」


「斥候隊、黒狼団?」


《ま、斥候隊が百、黒狼団とやらがそこそこの人数おれば、エルダーゴブリンジェネラルが町を攻めている間に奇襲して洞窟の仲間を助ける事も出来るのではないかな?まあ……今は動くな弟子よ》


「我々も努力いたしますので……」


「分かり……ました……」ポタ……ポタポタ……


《泣くなアリシア。お前が少しでも多くのゴブリンを倒せば良いだけの事。今は薬を多く作り、力を温存して身体を万全とするのだ》





今後も頑張って更新していきますので、ここまで読んで面白い!続きが気になると思っていただけたら、小説のフォローや下の↓♥、レビュー★★★などお願いします!

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