第51話・王城での会議と大将軍の私怨

 エレノ防衛戦四日目……アリシアが東の洞窟内に囚われた仲間入りの救出を兵士達に嘆願している時、王都に辿り着いた早馬が国王と謁見していた。


「して、伝令よ……エレノの現状を述べよ」


「陛下、エレノの町には古から伝わるエルダーゴブリンジェネラルがゴブリンの群れ三千を率いて東の森より侵攻してきております。エレノの駐屯兵はゴブリンよりも練度や位階の低い正規の兵士や予備役、老兵や新兵に冒険者の協力者を合わせても千五百を下回る程度でございます。至急、救援を!」


「ふむ、グラントはどうかね?」


「グラントの街には位階の高い兵士五千人と少しばかり練度は劣る予備役が五千人、冒険者や義勇兵が三千人おりますが、オークキングの群れは5体のオークジェネラルが率いる推定五万の大群であります。ドワーフ領セレニムのドワーフ達のおかげで半数以上がセレニム方面に向かっておりますが、配下のオークジェネラル二体がグラントに波状攻撃を仕掛けてきている次第ですので至急応援をお願いいたします!」


「そうか、宰相はどう思う?」


「そうですな……グラントの街は交易と食料品産出の要所でありますので至急の応援が必要かと。しかし、グラントを優先しますとエレノの町への対応はまず間に合わないと思われますが……」


「そんな……王国はエレノの民一万人を見殺しにするのですか?」


「それは仕方あるまい?大を生かす為には小を切り捨てるのもやむを得ず、交易や食料品の産出地である国の要所のグラントの街でのオークジェネラル侵攻を防ぐのは必定なれど……エレノはそこまでの要所ではないのだ。しかも相手はエルダーゴブリンジェネラルと言ったな?アレは百年以上前より数多の王国勇士を殺してきた真の化物ぞ!先代の近衛騎士団長も敗れておるのだ!グラント救援の片手間に倒せるモノではない。エレノは諦めるしかないのだよ」


「待たれよ宰相殿!」


「何でしょうか?リンバルト大将軍」


「ワシにグラントとエレノへの応援として三万の兵士を預けては貰えぬだろうか?グラントの街を防衛するは必定なれど、ワシはエレノの町も救いたいのだ」


「アーサーよ、それは私怨ではないのかね?」


 アーサー・リンバルト大将軍はエルト小国の公爵の地位を持つ国王の叔父であり、鉄壁の二つ名で呼ばれる猛将である。齢は既に五十を超えているのだが戦場で叩き上げられた肉体は頑強、位階は高くどんな敵に対しても怯まぬ胆力を持つエルト小国で一二を争う勇士であり、エルダーゴブリンジェネラルとは過去に因縁浅からぬ仲であった。


「我が王、かのエルダーゴブリンジェネラルは先代近衛騎士団長である我が師の仇で有ります。あの時、敗退して生き延びた儂に雪辱を晴らす機会を下さりませぬか?」


「う〜む、軍務大臣の意見はどうじゃ?」


「はい、私はリンバルト将軍の言に賛成したく思いますが……現在は北のオーランド王国軍との睨み合いが続いており、追加の派兵や王都の守備軍も必要ですので……そこから試算して出せる軍は騎兵五千、歩兵一万、弓兵三千に輜重部隊ニ千の計二万が限界かと……」


「それでどうかね?アーサーよ」


「では、副官にデュソル将軍を就けて頂けますかな?グラント防衛にデュソル将軍の手腕を貸して頂きたい」


「私でお役に立てますかな?」


 デュソル将軍は華やかな戦功は無いものの、定石を固く守り隙きのない軍の運用に定評が有る三十半ばの武人である。その二つ名は本人をそのまま表した堅実というものであった。


「ふむ、堅実のデュソルに鉄壁のリンバルトか……どうじゃな宰相?」


「そうですな……グラントは平野部ですし壁も厚い。エレノは若干の不安がありますが……まあ、リンバルト大将軍とデュソル将軍のお二方ならば安心ですな。王が決を下すので有れば臣に否はありません」


「よし!ならばリンバルト大将軍とデュソル将軍に勅命を与える!グラントの街とエレノの町に侵攻する魔物共から我が民を救え!出発を急げ!」


「「は!!」」


 こうしてオークキングとエルダーゴブリンジェネラル討伐軍が編成される事となった。


 討伐軍の移動は数時間後に騎兵が出発、歩兵や弓兵が後に続き、輜重隊も準備出来次第の出発となる。


そして東の洞窟近辺では……


 エレノ攻防戦4日目、エレノの町の長閑さとは反対に東の洞窟近辺ではエルダーゴブリンジェネラルと配下のゴブリンシャーマンが合流して約5000のゴブリンの大群が形成されていた。


「グォ、ギャギャ」(シャーマンヨ、ゴクロウダッタ)


「ギャギャギャ」(ワレラガオウヨ、オソクナッテ、スミマセン)


「ギャガ、ギャギャギャ。ギャ、ギャギャギャ」(ヨイ、テキノナカニ、オマエト、ニタチカラヲモツモノガイタ。ヤツハテゴワイ。アーチャーノ、ショウモウガハゲシイノダ)


「ギャギ、ギャギャギャ、ギャガ?」(ワレラガオウ、チイサナマチナド、カズデツブセバ、ヨイノデハ?)


「グォ、ギャガギャガ」(ソウダナ、ニンゲン二、カズノチカラヲミセテヤロウ)


「ギャ」(ギョイ)


 そして、名もなき村方面からも集結したエレノ斥候部隊が洞窟方面に近付いてはいたのだが、ゴブリンの群れに阻まれ犠牲が出ぬように外縁部からの一撃離脱戦法に終始する。


「ギャギャギャ!」ざわざわ……


「ギャギャ!」ざわざわ……ざわざわ……


「おいおい、なんなんだよ!このゴブリンの数は異常だろ」


「おい、確かに攻めてきたゴブリンは三千匹ほどだったのか?」


「はい、俺等が命からがら逃げた時は約三千匹ほどと目算しましたが……」


「うーん……これは三千匹どころではありませんね。どうします隊長」


「ま、東の洞窟に向かうにせよ、エレノに帰還するにせよ一当て二当てして前進と後退を繰り返すしかなかろう。ゴブリンの数を減らさねば魔物の森にマソが溜まり過ぎて新たな敵を造りかねん!出来るだけ怪我をせず命は惜しんでヒットアンドアウェイ戦法でいくぞ!」


「了解!」





今後も頑張って更新していきますので、ここまで読んで面白い!続きが気になると思っていただけたら、小説のフォローや下の↓♥、レビュー★★★などお願いします!


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