第39話・聖女様は攻撃魔法を所望される

 エルダーゴブリンジェネラル襲来の初日、赤狼団に襲われた名もない村から避難した10歳の少女であるアリシアは冒険者となり、ゴブリン達との防衛戦に足りない大量の傷薬とポーションを作成して冒険者ギルドに納品し、自らのランクを石級上位(ベテラン一歩手前)まで上げ、銀級上位ランク冒険者のアイオスの案内を受けつつ、エルダーゴブリンジェネラルとの攻防戦の最前線となった東門近くの臨時兵舎に負傷兵の治療をするため入っていきました。


 傷を負った兵士達は最初こそ、小さなアリシアが医師で有る事に対して懐疑的な姿勢でしたが、肩に矢傷を受けた戦士、後にアリシリアの巨盾将と呼ばれる英雄の卵である新米兵士ケビンを治療する際にアリシアが治癒魔法を唱えた事により状況は一変します。


 この後、エルト小国ではアリシアは医師ではなく正体不明の蒼の聖女リーシャと呼ばれて崇められるようになり、負傷したエレノの兵士は次々と前線に復帰しては負傷し、復帰しては負傷の繰り返しを続け、まさにゾンビのような状態でエルダーゴブリンジェネラル率いるゴブリンアーチャー達と互角以上に戦い続け、侵攻初日をエルダーゴブリンジェネラルの退却という形で終え、退却時に捨て置かれた大量のゴブリンアーチャーの死体から兵士達は装備などの剥ぎ取りを行っていました。


 一方、一日の治療依頼を終えたアリシアは冒険者ギルドで依頼達成の報酬を貰う事となります。


「アリシアさん、東門近くの臨時兵舎の警備隊長ビル・ビギンズ氏から、アリシアさんが治癒魔法を使えるとの情報が当ギルドに有りましたが、情報に間違いは有りませんか?」(この子凄いわ~)


「はい、そうですね。使えますよ?」(あれ?)


《こらこら、この女に無闇に手の内を明かすなアリシア!不味いって流石に分かるだろ!?》


(えっと……)


「それは……なんとありがたい。もしかすると攻撃魔法なども使えるのでしょうか?」 (もしかしたら攻撃魔法も?)


「そうですが、私に攻撃魔法による戦闘の依頼が有るのでしょうか?でしたら喜んで魔法を使いますが……」(村人の仇を討てるの?)


《あー、もう、この女に手の内をそれ以上明かすな!お前は全く理解しとらんじゃないか!アリシア!》


「いえいえ、今回のお話はあくまでも保険でございます。もしもの時の備えですね。とりあえず本日の報酬をどうぞ」(よし、新たな金儲け万歳♪)


アリシアは東門での治療依頼を無事に達成して多額の報酬を受け取った。


「保険…ですか?」(えーと、師匠様……保険って何ですか?)


《保険とはだな……そこの女も言ってるが、もしもの時の備えといったところだろ。これはアリシアの思い通りに村人達の仇を討てる流れだな》


「もしもエルダーゴブリンジェネラル率いるゴブリンの大群が、エレノの町の中に侵入した場合は魔法使いとして戦闘に参加願えますか?」(一応確認しないとね)


《ほら来たぞ?厄介事の臭いしかせん》


「はい、私は元々弓兵として戦闘に参加する予定でしたので構いませんよ。魔法使いが必要なんでしたら、そちらで活躍させて頂きます」(村人の仇を討ちたいです)


《はあ……まだルシオンの外での大規模な魔法の使用は許可しとらんだろ?先日の名もない村は例外だぞ?これは後で困るかもしれんよ》


(それでも仲間の仇を!)


《はぁ……それならば覚悟はしとけよ?この先は地獄だぞ?死にたくなくば甘えは捨てろ》


「ありがとうございます。では、とりあえず明日は午前中を傷薬の調合、ポーションの調合、兵士の治療と併せて遊撃任務をお願いいたします。多少忙しくなるかと思いますが依頼の報酬は弾みますし、必要な素材も全て提供致します」(金儲け♪金儲け♪)


「はい、分かりました。私としてもエルダーゴブリンジェネラルは同じ村の仲間の仇ですので精一杯頑張ります」(モンスター相手なら私は迷わない)


《はあ……俺は最優の弟子であるアリシアには、まだまだ命のやりとりで迷って貰いたいんだがね……やれやれ》


「では、明日もよろしくお願いいたします。なお、アリシア様の宿泊と食事に関しましては当冒険者ギルドが用意いたしましたので、このまま向かいのポンチョの宿に逗留下さい」(よし、逃がしませんよ~)


「何から何までありがとうございます。では、また明日」(待遇が凄く良いですね…)


《アリシア、待遇は良くて当たり前だよ?何せ、君は薬師に医師で魔法使いだしな》


(そんなものでしょうか?)


《ああ、明日からはあらゆる意味で本当に忙しくなるだろうさ……》


 アリシアは大量の傷薬やポーションの作成に加えて臨時兵舎での負傷兵への治療を行った事で、軽く疲れた身体をゆっくりと動かしてエレノ冒険者ギルドの向かい側の宿に入り、少し遅い夕食を食堂で食べる事にします。


 ポンチョの宿の食堂では一日の終わり、冒険者達が賑やかに酒をあおり、吟遊詩人が詩を唄い、笑い声と怒鳴り声が賑やかさを際立たせているのですが、店内は非常に素朴な作りであり、なんとなく安らぎを感じる雰囲気が漂っていました。


 アリシアは店の店主であるポンチョが用意して目の前に置いてくれた不思議な料理を食べ、その味に驚きます。


 ポンチョはエレノの町の宿屋兼食堂兼酒場の主人であり凄腕の料理人で酒場と食堂を切り盛りし、宿屋は妻が仕切っているのですが、彼と店員達は常に楽しそうに鼻歌を歌いながら料理を作り、酒類の販売はセルフ方式をとっていましたが、今まで一度も酒代を誤魔化された事がない位には冒険者達の仲が良い店でした。


 ポンチョ自体は時にはアイオスなどの有名冒険者達にサインをねだるミーハーなオジサンでもあるようです。






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