第40話・酒を呑んで魔法を披露する少女
冒険者ギルド加入からの薬品類の作成と納品、傷病兵士達の治療を終えて多額の報酬を受け取ったアリシアは疲れきった様子で冒険者ギルドの向かい側に有る騒がしいポンチョの酒場兼食堂に入った。
そして、ポンチョの作った料理を食べて目を見開き驚いた。
熱々の湯気を出すそれは、アリシアが生まれてから初めて食べるご馳走であった。
「なにこれ、凄く美味しいです!」(こんなの初めて食べたよ)
《ふむ……これは鶏肉の唐揚げじゃないか?こっちの世界にも有ったのか?》
(鶏肉の唐揚げ?鶏肉なんですかコレ?)
「おう、お嬢さん。ポンチョ特製の鳥の唐揚げは初めてかね?」(いや~美人さんだねぇ♪)
「これは鳥の唐揚げ?コレが鳥肉なんですか?凄い肉汁ですね」(普通の鶏肉ってパサパサしてますよね?)
《ふむ、やはり唐揚げか。日本の料理が異世界に有るとは驚きだな》
「そうそう、鶏肉を一口大に切って味付けして油で揚げた料理なんだ。内陸部の国やうちの国の王都方面では異世界から来た過去の勇者達が伝えた昔ながらの伝統料理だよ」(唐揚げで喜ぶ少女って新鮮な感覚だなぁ)
《ああ、過去の勇者って事は……俺が異世界から来る前に来た連中の事だな。俺の故郷の地球からは大勢の人間がこちらに召喚されたらしいからな。料理人の一人や二人は居たんだろ》
「外はパリパリで中はジュワーって肉汁が溢れますね!こんな美味しい物が世の中には有るんですね……」
《まあ、俺からすればアリシアの村が特別貧しいだけのような気がするがね……》
外はパリパリ、中はジュワーッと肉汁が溢れるスパイシーな唐揚げは、名もない村でホーンラビットの丸焼きこそが最高のご馳走であったアリシアの心をがっちり掴んだ。
そしてアリシアはまたもやポロッと師匠から誰にも話すなと言われていた能力を喋ってしまう。
「私、こんな美味しい料理は初めてです。少し魔法収納に保存したいですね。10人前程作って頂けませんか?」(うん、熱々が毎日食べたいかも)
《おい! アリシア! 魔法収納は話しちゃいかんと言っただろ! 》
「えぇ!? ま、魔法収納ですと!? もしや、お嬢さんは魔法使い様で!? あの幻の収納魔法を使えるんですかい?」(おいおい、これはサイン貰っとくか?)
「はい、そうなりますね。私は魔法使いですから」(あれ?)
《あー、この馬鹿弟子は……トラブルの予感しかせん》
「ははは、唐揚げは少し待ってて下さい。熱々の物を今すぐ大量に用意しますよ!」(よっしゃ~、旨い唐揚げ作ってサイン貰うぞ!)
マスターのポンチョはふんふんと上機嫌で厨房に入って行く。
辺境では、もはや伝説化している魔法使いに料理を誉められたのが余程嬉しかったのだろう。
気合いの入りまくった仕込みの音と油で鶏肉が揚げられていく素晴らしく良い匂いが食堂全体に漂ってきた。
周りの冒険者達もセルフサービスで冷たいエールやワインを飲み、ポンチョ特製料理を次々と豪快に頬張っていく。
アリシアの前にも大量の唐揚げが置かれ、アリシアは無属性魔法で作った容器のタッパーに唐揚げを入れていくが、それも冒険者達にとっては面白い余興となったらしく、アリシアは冒険者達に色々な料理を奢って貰えた。
「ではでは、熱々の唐揚げを何も無いところから取り出したる特別な容器のタッパーさんに入れて消しちゃいます!一瞬で消えますからお見逃しなく♪えい!」ヒュン……
《こらこらアリシア!魔法を余興にするな!》
「おー!良いぞ嬢ちゃん!次はコレを消してみてくれぃ!」
「分かりましたー♪さてさて、またしても取り出したる無色透明な容器に熱々の唐揚げを入れて……えい!」ヒュン……
「「おお!!スゲー!!!」」
《いかん……アリシアのヤツ、酒飲んでる》
たった一杯の甘い果実酒により、ほろ酔いノリノリのアリシアは、最終的に唐揚げ十人前、ソーセージ三人前、塩焼き鳥三人前、タレ焼き鳥三人前、スパイシー焼き鳥三人前、冷たい果実酒五杯を奢って貰い魔法収納へと収めていくが、その自重という言葉を一切無くした行動に師匠は頭を抱える事となる。
その間、ポンチョは何故か大きな紙を用意しており、それに大きくアリシアの名前とポンチョさんへ☆とアリシアは書かせられたが、美味しい唐揚げを大量に振る舞ってくれたのでアリシアには文句はない。
こうして、蒼の万魔将アリシアの直筆サインはポンチョの家系に代々伝わる家宝となるのである。初代ポンチョはかなりミーハーな男で有ったらしい。
エレノの町名物の凄腕料理人でありミーハーなおじさんであり、蒼の万魔将アリシアの貴重な品々や直筆サインはポンチョの家系の代々の家宝となり、それは遥か未来となる現在まで残っている。
美少女ながら愛嬌もあり、歌も巧いアリシアは冒険者達に可愛がられ、更に色々な料理を奢ってもらい、熱々の唐揚げをお腹いっぱい楽しみ、かなりの量の食料を時間が止まった魔法収納内に収めたのだった。
(ああ、私はこんなに幸せで良いのだろうか…)
冒険者達やポンチョとの騒がしくも楽しい夕食を終え、食堂の上階に有る広い部屋に案内されて室内に入ったアリシアは、桶に入った水と手拭いで身体を拭き、無属性魔法のクリーンで服を綺麗にした後で少し固めのベッドで横になった。
生活魔法クリーンは色々な物を綺麗にする魔法で水が無い場所での洗濯や掃除に役立つ無属性魔法から派生した冒険に役立つ生活魔法で有る。
「はあ、みんなほんとに死んじゃったのかな…」
(アニス院長、エルさん…みんな…)
《アリシア……まだ希望は捨てるなよ。今はゆっくり休め》
今後も頑張って更新していきますので、ここまで読んで面白い!続きが気になると思っていただけたら、小説のフォローや下の↓♥、レビュー★★★などお願いします!
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