第19話・避難民と交渉ド下手少女

 エルダーゴブリンジェネラルが率いるゴブリンの大群がエレノの町の東門付近で暴れまわり、初日の防衛戦が膠着した頃、アリシアを含む女や子供、六十歳を越えた年寄りを含む非戦闘員のエレノ町民は町の中心地の高台に位置する領主の館兼役場に集められた。


 役場は元々がエレノが町になる前の広大な領主の館を改築して造られていた為、堅牢かつ、中の広さはかなり有るが1000人にも届く避難者を受け入れれば多少……いや、かなりの窮屈となる。


「皆さん、皆さんの安全は我々エレノ兵士団が命に変えても守りますので安心して下さい!」


「あの……今エレノに何が起きてるんですか?」


「それはですね……」


「あの気持ち悪い音は何? 東門から徐々に北と南にも広がってるわ」


「うーん、それはですね……エルダー……」

「おい君! その話は要らん! 今現在、エレノ町の外で大規模な災害が発生しておりまして! 皆様には暫くご迷惑をお掛けしますが役場の敷地内がエレノ町で一番安全なのはご理解頂けるかと思います。後程、エレノ町長と兵士長から詳細が伝えられるまで暫くお待ち下さいますように!」


(((私達はどうなるんだろう?)))


 戦う事の出来ないエレノ町民の非戦闘員である女子供や年寄り達は不安でしたが避難誘導された理由は聞かされていませんでした。


 しかし、エレノの町を取り囲む不気味な音に徐々に不安と緊張感が増し、兵士達が話していた内容を伝聞情報で聞いてエルダーゴブリンジェネラルの襲来を知ってしまいます。


 そこからは更に緊張感や恐怖が避難所に漂いだし、非戦闘員の女や子供、老人の中には恐慌状態となる者が現れ出しました。


 むしろ、災害クラスのエルダーゴブリンジェネラルの襲撃に怯えない方がおかしいのです。


 エルダーゴブリンジェネラルの襲来を知ってしまった避難者達は窮屈な役場内で肩を寄せあって恐怖に震えていました。


 しかし、例外は何処にでも有るものです。


 エレノの町の住民が恐怖で震えている光景が広がる中、アリシアは手持ち無沙汰ながらも名もない村の人々を犠牲にしたであろうエルダーゴブリンジェネラルを討伐して仲間の敵討ちをするべく思案しました。


(師匠……私はエルダーゴブリンジェネラルを許せません)


《うむ、それは分かる。私は君の魂の中に居るからね》


(師匠……エルダーゴブリンジェネラルを倒すにはどうしたら良いのでしょうか?)


《そうだな、直接か間接かの問題は有るけど……先ずはアリシアが何をしたいかよりも、アリシアの価値を認めさせて前線に出なければ話にならないだろうね。さて、アリシアに出来て戦場に今必要な物は何かな?》


(戦闘力と魔法……ではないですよね?薬と医術……でしょうか?)


《ご名答、先ずは薬剤が作れる事をアピールしてはどうかな? 戦闘には薬剤が必要だけど、この町の状況だと薬剤が少ないんだと思うよ》


(私は戦闘で直接敵討ちをしたいのですが……)


《まあ、それはアピール次第じゃないかな? とりあえず、目の前の兵士に話し掛けてみると良いよ。案外上手くいくかもしれないしね》


(分かりました師匠)


 アリシアは怒りを湛えた瞳で名もない村の人々を犠牲にしたエルダーゴブリンジェネラルに一矢報いる為、先ずは何をするべきかを考えつつ警備の兵士に話し掛けます。


「あの、兵士さん……エルダーゴブリンジェネラルが攻めて来てるんですよね?私に何か出来る事は有りますでしょうか?」


《うーん、アリシアは交渉下手だね》


「うん? なんだい? 別にお嬢さんは何もしなくて良い。この役場で隠れて大人しくしてなさい」 (うん? なんだ?)


「いいえ、私も戦えます! 戦わせて下さい!」


《いやいや、薬師を強調するんじゃ無いのか? ちょっと交渉下手過ぎるだろ弟子ぃー!》


「うーん、君はまだ子供だろ? 幾つか知らんが十歳位かな、エレノの町では十二歳以下は戦えんのだよ。そう言われても困るんだが…」 (いやいや、この娘ほんと何言ってんの?)


「私は東の名もない村の狩人のアリシアです! 手持ちの弓矢が有れば、弓兵として役に立てます!」

《アリシア、俺の話を聞いてるのかなー? 狩人を強調してどうするのかな? そろそろ薬師を強調しないか?》


「うーん、名もない村の少女の狩人か…隊長、どうしますか? こう言ってますが?」 (狩人ねぇ…そうは見えねぇな…)


 エレノの中心部に有る大きな役場の頑丈な表門から、落ち着いた五十歳位の兵士が役場内にやって来た。そしてアリシアをチラリと見て考えるそぶりをみせた。


「うん? このお嬢さんは確か…ああ、赤狼団の団長ゼノアと斧使いのドラ達を含む盗賊達30人を見事に討ち取った凄腕バウンティーハンターの子じゃないか! この子ならば大丈夫だろう。やらせてみてはどうかな?」 


(見かけは美少女なんだが…)

 

「え? 隊長、大丈夫なわけないでしょう! 10歳位の少女に弓兵の真似事させる国なんて終わってますよ! 戦は兵士の仕事でしょう? 何言ってんですか!」 


(あんたはアホか! 美少女が死ぬわ!)


「うむ、彼女は王都の有名剣士を惨殺するような凶悪な盗賊を狩る位には実力は有るんだがな……まあ普通はそうなるわな。うーむ、やはり無理だわな」 


(やっぱり許可出来んよな…)


「隊長! しっかりして下さいよ! こんな事やってたらエルダーゴブリンジェネラルに勝てませんよ!」


(当たり前だろ!)


「まあ、そうは言ってもだな。相手はエルダーゴブリンジェネラル率いる大群だしな、俺等も優秀な戦力は喉から手が出るくらいには欲しいんだよな」 


(ほんと……俺は猫の手も借りたいよ…)


 若い兵士は年輩の隊長や他の兵士に文句を言う。


 少女を戦闘の矢面に立たせるなど言語道断、怪我でもしたらどうするのだ!と、凄まじい剣幕で怒る若い兵士に年配の隊長も反省した。


 しかし、アリシアも黙って役場に居るつもりはなく、戦闘に参加出来ないと知ると次の案を出した。






今後も頑張って更新していきますので、ここまで読んで面白い!続きが気になると思っていただけたら、小説のフォローや下の↓♥、レビュー★★★などお願いします!

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