第18話・悲惨な北門と西門

 エルダーゴブリンジェネラルがエレノの町へ襲来した初戦、エルダーゴブリンジェネラルはゴブリンの大群を率いてエレノの町の東門前に陣取り、約300匹のゴブリンアーチャーによる先制射撃を行い、東門の櫓に居た多数の兵士達に負傷者が出た。


「グオオオォォォォォォォーーーーーーーー!!!」


ビュンッ ビュンッ ビュンッ!


 「ギャヒ!」 「ギャギャ!」 「ギャギャ!」……ざわざわ…ざわざわ…


「被害状況を報せ!」


「は!今のところエレノ全体の兵士数は臨時召集した者を含めて1358名です! アイオス殿が率いる冒険者達は約300名との事。内、防衛開始から現在までに兵士の死者0名、重傷10名、軽傷42名です!軽傷の42名は既に前線に復帰しております!」


「死者は0か……ふむ、物資の補給はどうか?」


「補給物資は食料に関しては問題有りません! しかしながら矢の補給が全く追い付いておりません! 薬剤に関しては専門家がおらず、我々が作成した粗悪品の傷薬でなんとか凌いでいます! ポーション類は全て消費しておりまして、重傷者を癒す手段が有りません!」


「うむ、薬剤が無いのは痛いな……どうにかならんものか? 無い物ねだりは出来んな。引き続き鍛治屋に弓矢の増産を急がせよ!」


「兵士長! 大変です! エレノ西廃坑跡ダンジョンと町を繋ぐ道の中間の川に掛かる跳ね橋が向かい側から上げられました!」


「はあ、それは仕方ない。誰も死にたくは有るまいよ。だが、西への住民の退路は絶たれたか……」


 エレノの町からも地の利を生かし、8mの高さを誇る塀と櫓から返礼とばかりにゴブリン達に大量の矢を浴びせてゴブリンを数十匹ほど倒す事に成功しました。


 しかし、高所の利を得て一見順調に見えた防衛戦で有ったのですが、エレノの町では装備品などの更新が長い間滞っており、装備品類の劣化がかなり進んでいた為、更新を検討する段階で有った事が禍して弓矢などの激しく消耗する武器類が早々に壊れていってしまいます。


 更なる不運は備蓄していた薬剤や矢などの不足、さらに一部貴族や商人、医師などがエルダーゴブリンジェネラルの襲来を受けた直後、多数の傭兵と共に素早く北西のグラント方面に逃げてしまい、薬剤の調達は滞って負傷者の手当をする事が出来なくなった事でした。


 この問題に対する為、エレノ町の兵士長ビル・ビキンスは即座に各ギルドや鍛治屋などに協力を求め、近隣の町や冒険者などに助けを求めたものの、エレノ西廃坑跡ダンジョンの冒険者達からは命を掛けれる事案では無いと救援を断られた挙げ句、重要な薬品類を持つ商人や多数の傭兵はエレノの町を離れ、エレノ町とダンジョン間に流れる深い川に掛かる跳ね橋を上げられエレノ西廃坑跡ダンジョンへの退路を絶たれます。


 まさに泣きっ面に蜂の状況でした。


「グオオオォォォォォォォーーーーーーーー!!!」


ガサガサ……「ギャヒ!」 「ギャギャ!」 「ギャギャ!」……「ギャヒ!」 「ギャギャ!」 「ギャギャ!」……ざわざわ… ざわざわ…


「大変です!ゴブリンの群れが左右に別れて北と南側に向かっています!」


「何!?さすが伝説に残るエルダーゴブリンジェネラルか……冒険者を率いるアイオス殿に直ぐに状況を報せ!」


「了解!」


 エルダーゴブリンジェネラルの大群は組織的に動いてエレノ東門に本体を置きつつ、町を囲むように北と南側にゴブリン分隊の移動を開始させる。


 当然、高い櫓からの弓兵達も北と南に分かれて迎撃を開始しますが、多くの兵士は割けれず苦境に立たされてしまいます。


「アイオス殿に伝令です!ゴブリンの群れが北門と西門に向かっております!」


 それに対してエレノの町では現在、単独で銀級上位の人外の強さの蒼き盾クランのクランマスターで有るアイオス率いる金級の上級者パーティーから鉄級パーティーを含む中級レベルの冒険者達が町の北と西の門の防衛と物資補給の為に走り回っていました。


 エレノの町は人口一万人を越える辺境の町でしたが付近に魔物の森やダンジョンが有る為、町を覆う壁は厚くて高いようです。


 分厚い鉄で造られた東門もゴブリンに破壊できない程度には頑丈でした。


 しかしながら北門と西門にはたいした脅威はなく、守りはかなり軽視されていた為、その防備は薄く、危険が予想される場所に現状の最大戦力で有る蒼き盾のアイオス率いる冒険者達が配置されました。


アイオス達が守る北門では……


「アイオスさん、やっぱ北門は不味いですぜ。壁の高さはギリギリ大丈夫だと思いますが厚みが薄っぺらいです。それと門が見た通りですからね」


「あー、だよな。東と南はやたらと高くて分厚い壁だが北と東はそんなに高さも厚みも無いしな。とりあえず、門を急いで直させてくれやー。その間、ここは俺等が死守せにゃならんだろ」


「はあ、そうなりますか。西門はどうでしたかね?」


「うーん、どうだったか?ま、ジャッシュのヤツがなんとかすんだろ?とりあえず、こっちは交代で休み休み守るからよー、簡易陣地と罠と杭を仕掛けとけよー。さあさあ仕事だ仕事!職人さん達も作業開始だー!」


「了解!」


「分かったぜアイオス!ちゃんと俺達を守ってくれよな!」


「はいよー!任されたぜー!」


 北門には門の枠こそ有るものの、経年劣化の為に左右の柱に開いたまま固定された鉄の扉が有った。


 当然、北門はほぼほぼ防備が無い状態なので急ぎ門の修繕が始まり、力に自身の有る者達によって薄い壁には土嚢が積まれていく。


 それに平行してアイオス達は冒険者の経験を生かした悪辣な罠をそこかしこに仕込んでいった。


そして西門では……


「あちゃー、毎日通ってて思ってたんすが……ちょっと不味いっすねこりゃ」


「ですね。どうしますかコレ?」


 西門には枠だけしかなかった。そう、西の門には扉そのものが無いのです。



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