第8話・アリシアを心配する兵士達

 赤狼団に襲撃された名もない小さな村を離れて二日目の深夜にエレノの町に着いたアリシアは、初老の門番に経緯を説明したり足の傷の手当てをしてもらったり、持参した賞金首とブックを換金したり、村人の捜索に出た兵士達がもたらす情報を聞きつつ眠れぬ夜を装備を補修したり、傷薬を調合して過ごしました。


 初老の門番と交代して、アリシアの世話をするようにいわれてきた若い門番や警備隊長の心配を余所に、不眠不休で起き続けるアリシアを心配した兵士達は、アリシアを宿舎の仮眠室で寝かせて見張りを付け少女が眠るのを待ちます。


 そして翌朝…目を覚ましたアリシアは開口一番、回りに居た兵士達から、エレノの町に避難した筈の名もない村の人々の情報を集めました。


「あの、赤狼団に襲われて避難してきた東の名もない村の人達はエレノの町に入って居ますか?」


「うーん、それは三日ほど前に赤狼団の襲撃にあったとかって話の東の名もない村からの避難者の事かな?それなら今も兵士が百五十人以上出掛けて捜索中だけどね。まだ見つかっていないようだよ?だいたいエレノから東の方の村に行くには早くても三日、四日は掛かるだろ?かなりの斥候兵が出てるんだが、まだまだエレノの町の近辺を捜索している感じなんだよ。それはそうと、君はしっかりご飯を食べて休んでなさい。君の町での受け入れの準備などは少し時間を貰うよ?良いね?」(困ったな…)


「そうですか………ありがとうございます」(見つかってないんだ…)


《アリシア、そもそも君が異常に早いだけで避難者は早くて四日、いや五日ほどは掛かるだろ?もう少し落ち着いて待ってはどうだね?》


「まあ、普通ならば直線でも三日、四日の距離だし、怪我をした人達も居たんだろ?避難した人数が四十人ほど居るんなら、少数のゴブリンの集団も逃げ出すから大丈夫だろう。うちの精鋭部隊の兵士も斥候を除いても百人体制で探してるんだ。まあ、気楽にしてなさい。今から食事を持って来るからゆっくりしてるんだよ?分かったね?」


「はい、よろしくお願いいたします」(どうしよう………みんな、みんなは何処に居るの?どうしよう)


《アリシア、少し落ち着きなさい。こんな時こそゆっくり休んで薬を作って魔法の鍛練をするんだ。しっかりと体調と装備を整えなければ、いざって時に力は出んぞ?》


(分かりました師匠……)


カチャカチャ……ゴリゴリ……


ポタポタ……キュッキュ……


「はあ……師匠みんなは大丈夫だよね?」


《うむ、村人が大丈夫かどうかは五分五分ってとこだな。魔物の森を通るのだし完全に無事という事は俺には言えん。とりあえず、ここの斥候や精鋭の兵士が百人単位で捜索してるんだ。早々に安否は分かるだろうよ》


カチャカチャ……ゴリゴリ……


「それだともっと心配になるよ師匠……」


《まったく……アリシアも少しどっしりと構えたらどうかな?俺が10歳の時にはもう少し落ち着いていたよ?まあ、俺の家は特殊だったがな。はあ……死んでも弟に会えなかったのだけは無念だ》


「そうだよね。師匠は死んでも弟さんに会えなかったんだよね。ごめんなさい師匠」


《良いよ。私も説教ばかりだね。アリシアは俺の弟子の中でも優秀なんで少し配慮が足りなかった。その辺は許してくれよ》


「はい、師匠」


ガタガタ……カチャ……


「はい、ご飯を持ってきたよ……って、えーと、その道具は何処から?って……君、ちゃんと寝てないとダメだよ?昨日の今日で君の身体も心もボロボロなんだしね!見た目は大丈夫って気もするけどさ、普通は名もない村から二日掛けて走ってエレノまで来るって有り得ないからね?もしかしたら君は名の有る冒険者や賞金稼ぎだったりする?魔物を狩る高ランクの冒険者とかの位階は人外の領域って聞くけど、それでも君は10歳の子供なんだしさ、少しは休むべきだよ?」


《ほらな、怒られた。大人の言う事はちゃんと素直に聞くことだ。だがね、くれぐれも悪人の言う事は聞くなよ?アリシアは人が良過ぎるきらいがあるしね》


「分かりました。ちゃんと食事して少し眠らせて頂きます。」


 アリシアは兵士達の宿舎で休むように命じられながらも村人の安否が気になって仕方なく、傷薬を調合をしてみたり魔法の鍛練をしながら時間を潰す。


 その後も兵士達がちょくちょく運んで来る食事を食べ、世話しなく動く兵士達に村人の安否を確認する事を繰り返したが……結局、何事もなく一日が過ぎ、アリシアはやっと眠りについた。


「おはようございます門番さん!」


「ああ、君か。体調はどうだね?見た感じは大丈夫そうだが……」


「はい、すっかり体調も良くなりました。私の村の人達はまだ来ませんか?」


「ああ、体調が良くなって何よりだ。まあ、残念ながら今のところは避難者の情報は来て居ないよ。精鋭兵士が100人単位で動いてるし、斥候部隊も30人規模で出てるんだが名もない村は遠いからね。もう2日、3日ほど待ってはどうかな?」


「はあ……そうですか。分かりました。ありがとうございます!」


「ああ、君も少し休んでた方が良いぞ。そんな様子だと心がもたんよ」


《その通りだな、アリシアはしっかり休むんだ》


「はい、分かりました」


 翌朝、アリシアは再び若い門番に名もない村の避難者の行方を尋ねたが、未だに一人も見つかってはおらず、捜索の状況は芳しくないようでした。


 しかし、昼過ぎに重傷の兵士が一人で帰還した事によりエレノの町の状況が一変します。






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