第9話・ゴブリンと闘う避難民

 アリシアがエレノの町の東門で老兵に保護されて丸1昼夜が経過しました。


 エレノの町からは北のセレニム方面に騎馬三十名、名もない小さな村の方面へは精鋭百名、そして黒狼団からゴブリンの目撃情報を聞いた熟練の隊長が率いる三十名の玉石混淆の斥候部隊が東の大洞窟へと向かっていきます。


 名もない小さな村の場所から丁度エレノとの中間地点にあたる場所、東の洞窟へと向かう獣道で斥候部隊の一人が荷車を牽いたであろうわだちを見つけたのですが、同時に不穏な情報を集める結果となります。


ガサガサ……ガサガサ……


「おい、そっちはどうだ?」


ガサガサ……ガサゴソ……


「うーん、これは車輪のわだちで間違いなさそうなんだが……これを見てくれ」


「うん?小さな足跡……これはゴブリンか?」


「ああ、恐らく俺達が探してる名もない村の避難者達はゴブリンの群れに捕捉されちまったらしい」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。ゴブリンって、あの鉄級下位のゴブリンだよな?俺達だけで勝てるのかよ?」


「さあな、やってみないと分からんね」


 どうやら、名もない小さな村の避難者達は東の洞窟方面に向かったらしいようです。


 そして少なくない数のゴブリンが避難者を追尾しているようでした。


 弱腰になった斥候部隊の隊員に部隊長から檄が飛びます。


「おい!貴様等!こちらは一応30人の特別訓練された斥候部隊だぞ?ゴブリンの10匹や20匹なら問題あるまい?どうだ新米諸君?君達はたかが鉄級下位のゴブリンに負ける程度の訓練しかしてないのか?俺に訓練の成果を見せてみろ!」


 これに対する斥候部隊の隊員の反応はそれぞれ違うが、とりあえず新米達もやる気を出している様子が見て取れました。


 ベテラン勢の各分隊長達は流石に慎重であり浮わついた様子は微塵もないようです。


「あ、ああ、そうだな。日頃の訓練の成果を見せてやるぜ!」


「ゴブリンなんざ怖くない!やってやるぞ!」


「やれやれ、日頃の訓練だけでは実戦で役に立たないって事を忘れるなよ!」


「そうだぞー、何回も実戦に実戦を重ねないと位階はほとんど上がらんよ。俺達はせいぜい石級上位ほどの実力だぞ?ゴブリンの上位種が出たら即時撤退するのを忘れるなよ!」


「おう!集団戦なら負けんぜ!」

「分隊長……俺、なんか嫌な予感するんすけど……」


「うむ、ワシ等は固まって動くぞ?生き抜く事が大事だしな。命あっての物種って話だ。明日エールを飲みたかったら今日死ぬんじゃねぇぞ!」

「了解です!」「うっす!」


 この斥候部隊はベテラン兵士10名がそれぞれ2名ずつの新米兵士を連れ、訓練がてら名もない小さな村からの避難者の救助に向かったのですが、ベテランが落ち着いている中で新米兵士の半数近くがゴブリンとの戦いを躊躇していました。


 ゴブリンは一般的には見た目が人間よりも小さく、ひ弱な印象を持たれていますが、実はそれは大きな間違いです。


 一匹二匹ならば4人程度の石級上位(4人でベテラン兵士一人程度の実力)の冒険者のパーティーでもなんとか倒せます。


 しかし、兵士はあくまでも兵士で有り実戦経験皆無の新米だと石級上位(一般人に毛の生えた程度)の実力しかありません。


 ゴブリンは集団戦を好み、知能が有り、残虐極まりない事を新米達は理解せずに勢いのまま東の洞窟に斥候部隊は辿り着きました。


カサカサ……


「おい……洞窟にゴブリンの見張りが居るぞ?」


「ああ、やはり荷車の轍は洞窟に向かっているな……で、どうするよ?」


 斥候部隊の新米隊員達は洞窟の入口で見張りをする2匹のゴブリンを見て作戦を立て、二手に洞窟の左右に回り込んでからの弓射で仕留める事にして行動を開始します。


 そして、配置についたベテラン兵士がゴブリンを左右から挟み込んで弓射しました。


ヒュンッ……トス……「グギャ!?グブ……」パタン……


ヒュンッヒュンッ……トストス……「ヒギャ!?」パタン……


 死んだゴブリンからフワリとプラナが溢れて兵士達に吸収されました。


「なんだよ、ゴブリンって意外と弱いな」


「よし、ゴブリンの死体は隠して前進するぞ!中は暗いかもしれんが松明は控えよ!」


「了解!前進」


「「おう!」」


 エレノの東の魔の森奥に有る洞窟は何時の時代から有るのかは分かりませんが、一説によると数百年から数千年前の古エルト王国の時代には既に存在していたらしいです。


 一昔前、エレノの町を襲ったモンスターに因る災害で町を半壊させたエルダーゴブリンジェネラルのねぐらではないかと噂はされていましが、当時はエルト小国最強の王国騎士団長すら手も足も出せず、瞬殺されたと言われるエルダーゴブリンジェネラルのねぐらを探しに魔物の森の奥深くに行く者はおらず、そもそも魔の森には誰も近寄る事は無いので真偽は定かではありませんでした。


 斥候部隊の面々は息を殺しつつ、奥へ奥へと進むと巨大な広場に到着します。


 洞窟内の比較的大きな枝道の一つで何かをぶつける音と怒声のようなものが聞こえました。


ガツン!ガツン!ミシミシ……


「ギャギャーーー!」

「ギャギャギャギャーーー!」


 見た目に反してゴブリンの力は強いです。


 洞窟内では避難民の中でもレベルが高いオルソンとパスカルがゴブリンの群れと戦っていました。


ガツン!ガツン!バキッ……グシャ!


「ギャヒャ!?ギャギャギャ!ギャーーー!」


ゴス!ゴス!


「くそ!なんて馬鹿力なんだよ!パスカル!斧を持ってる奥の奴を射てるか?」


「ああ、任せな!オルソンはエルさん達を連れて奥へ行け!ここのバリケードは何時壊れてもおかしくない。流石にゴブリンの群れに俺達が敵うわけはないって事だな。さあ、早くガルフ爺達を奥へ」


 斥候隊は、名もない村の避難者を見つける事が出来たと思いつつも、洞窟内のゴブリンの群れの数の多さに対応を苦慮しました。


 結果、斥候部隊の隊長は閃光玉を投げる用意をします。


 仲間には閃光玉を投げる合図を出したのですが、生憎と洞窟内の奥に居た名もない村の避難者であるパスカルやオルソンの事は考慮せずに閃光玉の投擲を投擲しました。







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