第22話・南門へ到着した二人の応援




 南門に逃げた村人達を待っていたのは厳しい現実でした。


 南門の自警団の面々は既に息はしておらず、ガルム村長はかろうじて息はしていますが血溜まりが拡がるうちに刻一刻と顔は青醒めて土気色となっていきます。


「野郎共!殺っちまえ!」

「「「へい!」」」


 そして、ハゲ頭のドラ率いる赤狼団の別動隊が避難する村人達に襲い掛からんとした瞬間、遠くから2本の矢が飛来して前に飛び出した盗賊二人の足を射ぬきました。


ビュン! ビュン! トス! トス!


「「ギャアアアアアア!」」


「間に合ったか!」

「みんな大丈夫ですか!」


 南西の門に避難して来た村人のピンチに現れたのは、村外れの各家でそれぞれ装備を整え矢を補給したアリシアとパスカルでした。


 二人は多少の時間が掛かりながらも村長の家を出て南西の門に向かった村人達に追い付きます。


「みんな! 大丈夫か?」

「パスカル? アリシアもか」

(あれ?ジル達は?)

「おい! ジルとオルソンはどうした?」

「ジルの兄貴は一人で北門で盗賊を抑えてるよ」

(多分、合流は出来ん)

「オルソンさんはエルさんを助けにいきました!」

「そうか、ジルは一人で……」

「ところで、みんな大丈夫ですか?」

「すまん、南門の自警団達は既に盗賊達に殺されちまった。村長も……」

「ああ、畜生が!」

「みんな下がって!」


 村人達に声を掛けるとアリシアとパスカルは前に出ます。


 目の前に転がる門番や自警団の死体、盗賊に切り刻まれた瀕死のガルムは微かに息をしていますが……


「ガルム爺は」

「あの傷だ、もう助からん」

「そんな」 


 パスカルとアリシアの矢を受けた二人の盗賊は後ろに下がり、ハゲ頭の斧使いドラを含めた残り九人の盗賊達が前に出ました。


 そして、前に出た盗賊達のうち3人は粗末な弓を持っていたのです。


 盗賊達の矢が名もない村の避難者達を襲いました。


「やれ!」

「「おう!」」


ビュン!


 緩く放たれた矢をアリシアが避けます。


ビュン! トス! プシュ!「うわぁ!?」「くう……」


 しかし、避けた矢が孤児を庇ったアニスの背に矢が刺さってしまいました。


ビュン! トス! プシュ!


「きゃあああ!」


 さらに別の孤児の足に矢が突き刺さります。


「ひゃっ!」

「うっ!」

「ぐあっ!」


 アリシアを狙った赤狼団員の別働隊の放った矢の1本は目標を逸れ、2本の矢が孤児仲間の1人の足と、孤児を庇ったアニス院長の背中に突き刺さりました。


 アニス院長の背中の傷は見た目からも重傷に見えます。


 アニスは現在五十二歳で元は司祭の修行の為に辺境を旅し、今は名もない小さな村の教会兼孤児院を営んでいる聖光教会のシスターで有す。


 実年齢は五十二歳なのですが、数年前に流行り病のリム熱で死にかけたおり、アリシアの持って来た師匠の薬で奇跡的に助かった際に若さが戻り、見た目はニ十歳以下の十代半ばにしか見えない感じでした。


 孤児院は経営が些か厳しいものの、付近の村から口減らしで捨てられた子供達を集めて育てており、孤児達を助ける為には自らの背に矢を受けるのを躊躇しない勇気の持ち主です。


 アリシアはパスカルに目配せして赤狼団の弓手に狙いをつけて矢を放ちます。


「バスカルさん!」(弓を持つ盗賊を!)


ビュン! ドス! 「ぎゃあああ!」


 アリシアの放った矢が盗賊の肩に突き刺さり、のたうち回ります。


 バスカルも別の盗賊を目掛けて矢を放ちました。


「おう!」 (あいつらは潰す!)


ビュン! ドス! 「ぐあ!?」


 更に別の盗賊の腕に矢が突き刺さりましたが、まだまだ二人の放つ矢は止まりません。


ビュン! ドス! 「ぐぎゃ」

ビュン! ドス! 「あでっ」


 赤狼団に応戦したアリシアとバスカル、二人の矢が弓を持つ盗賊の腕を次々と射ぬいていきます。


 そして、そんな南西の門での戦いに転機が訪れます。


ドカドカ……ドカドカ……「みんなーーーー! 大丈夫かーーーーーー!」

「オルソンや、もう少し静かに運んでくれないかしら。母さん腰が痛くて」

「ああ、すまん母さん」

「オルソン! 無事だったか!」

「おう! すまんが母さんを荷車に乗せてくれ!」

「ああ、エルさんはこちらへ」

「ごめんなさいねー。オルソン、あんまり無理をしないでね」

「分かったよ母さん!母さんは荷車に乗っててくれよ」

「はいはい、無茶は駄目よオルソン」

「うん、気を付ける!」


 避難者達の後方から雄叫びを上げながら母親のエルを担いだ巨漢の木こりで有るオルソンが合流しました。


「ウオオオオオオォォォォーーーーーー!アリシアーーーー!パスカルーーーー!待たせたなーーーー!」


 手早く母親のエルを避難者の荷車に乗せると、アリシアとパスカルの前に剥き出しの筋肉を晒した巨漢のオルソンが使い古された大斧を担いで盗賊達との間に割って入ります。


「オルソン! 前を頼む!」

「オルソンさん、ご無事で!」

「おう! なんだこりゃ!? ガルムの爺っちゃん! 自警団の連中が……お前ら、オラァー!」


ブォン! ゴスン!! 「ひゃっ!?」


(ちくしょう!なんてこった……ガル爺が!赤狼団はこっちにもいやがったのか!許さねぇぞ!)


 のたうち回る盗賊と呆然と突っ立っていた残った盗賊一人には町外れの自宅から急いでエル婆さんを連れて合流したオルソンが草臥れた斧を振り上げて突貫します。


「ふん!」

(ガル爺の仇…死ねや盗賊!)


ブォン!ズバン! 

グシャ!「ぐっ!」ドサッ


 オルソンの巨漢と筋肉による強力な大斧の一撃が振り下ろされ、地面をのたうち回る盗賊を叩き潰しました。


 先ずは一人の盗賊が即死します。




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