第21話・焼け落ちる北門と南の伏兵


 名もない村側からの思わぬ迎撃により北門を襲撃した赤狼団はその数を半減させたものの、北門の前で一人孤軍奮闘した傭兵のジルを倒して北門を完全に焼け落としました。


「うひゃひゃ♪ お頭~、こいつ良い装備してやがりますぜ~」

カチャリ「お?この剣、かなりの業物だな。それは俺が貰ってやる!」 

「お頭~、他の奴の装備も剥いで良いっすよね?」

「好きにしな!死んだやつには必要ねぇし」

「ひゃはははは!」ザクザク……ベリベリ…


 名もない村に押し入る前に仲間だった盗賊達や傭兵で有るジルの死体からも使える装備や物品が剥ぎ取られゼノア達が装備します。


 血溜まりに沈むジル達の残骸を乗り越えて燃え落ちた北門からゼノア率いる赤狼団十数名は名もない村に押し入りました。


 こうなると赤狼団の盗賊達は村人が居なくなった名もない村での容赦ない略奪を開始します。


「よし、北門は押さえたぞ!オメェ等、剥ぎ取りは済んだな?オメェ等は家々を回って売れそうなもんや食いもんと金を集めろ!」

「「「へい!」」」


 下っ端の盗賊達は北門近くの家から順に略奪を開始しました。


 北門の自警団敗北の報せを受け、村人達が避難するのが一足早かった為、村人達は軽く纏めた手荷物一つを持って村の中心から南寄りのガルム村長の家に向かっています。


「ち、しけてやがるな……」

「おい!そっちはどうだ?」

「食いもんとボロ切れと小銭位だな」

「ろくなもんが有りゃしねぇ!」

「へ、なんなら全部燃やしちまえ!」

「へいへい、悪く思うなよな」


ヒョイッ、ボォオオオオーーー!


 避難した村人達の家には持ち出せなかった家具や生活雑貨や僅かな食糧、多少の硬貨は有るものの、お宝と呼べるような品はほぼほぼ存在せず、盗賊達にしても適当に食糧やら金になりそうな布の服やシーツ、毛布などを運び出せば木造のあばら家などには用はありません。


 その結果、略奪が終了した北門の近くにある建物が順に燃えていきました。


 それを南西の門に逃げるしかない村人達が見て絶望しています。


 平和で長閑な名もない小さな村を襲った不幸は現在進行中で有り、逃げる村人達の命も危ないのでした。


「北門が燃えてるよ!」

「北が火の海に!」

「みんな、南門に早く逃げろ!」

「早く南門へ!」


 村人達は盗賊襲来の一報を受けて直ぐに持てる荷物を簡単に纏めて村の中心から南寄りに有る村長の家に集まります。


「自警団は南門に急ぐのじゃ!」

「荷車には最低限の物だけ載せろ!

「年寄りも荷車へ!」

「女子供も着いてこい!」


 村長のガルフ・ガルムの家に置かれた頑丈なだけが取り柄な粗末な荷車数台に村人全ての荷物と歩けない年寄りを乗せ、戦闘に参加出来ない村人達が荷車を押しつつ女子供達は南門へ急ぎました。


 しかし、南西の門にも望まぬ客達が集まっていたのです。


 赤狼団の別動隊を率いる禿頭の巨漢ドラは三十六歳の賞金首で、懸賞金はゼノアに次ぐ金貨八枚と銀貨五十枚の鉄級上位クラスの斧使いであり、ゼノアの指揮の元、赤狼団の別動隊を率いる為そこそこ強い盗賊で残虐な性格をしていますが……その指揮能力はそこそこ高いものが有り、腕力で言う事を聞かせるタイプでした。


 しかし、ドラが率いる隊もゴブリンとの闘いで生き延びた十人ほどの盗賊達であり、そのレベルは一般的な人よりも力が強い石級以上なので戦力としては申し分はないのです。


「ぎゃああああ!」


 赤狼団の別動隊は名もない村の分厚い壁伝いに南西の門まで回り込んでおり、北門で騒ぎを起こして南西の門が手薄になっている瞬間を狙って門番をしていた自警団達を殺害して避難して来る村人達を待っていました。


「な、なんじゃ!?」

「ガルム村長、わしらが先に見て来ますんで暫く待ってて下さい」

「いや、ワシも行くぞ! 後から来る皆は固まって荷車を押すのじゃ!」

「ガルム村長、気をつけて!」

「ガルム爺ちゃん気をつけてねー!」

「おう、ワシは大丈夫じゃわい! ワシもまだまだ若いもんには負けんぞ!」


 先行する自警団とガルム村長、しかし既に南門には赤狼団の別動隊のドラ達が待ち構えており、奇襲を受けた北門から撤退した自警団員数名は瞬く間に全滅してしまいます。


「ヒャハハハハ!死ねぇ!」

ズシャ! 「グハ……」 パタン……

「くそ、こちらにも盗賊が……」

「余所見してんじゃねぇよ、バーカ!」

ズバッ! 「ウグゥ……」 パタン……

「みんな!来るんじゃない!南門にも盗賊が居るぞ!」

「うるせぇよ!」

ズバッ! ズバッ! 「ぐううう……まだ死ねん……まだ……」 パタン……

「ひぃいいいい!?」

「自警団がやられた!?」

「ガル厶村長!」

「ガルム爺ちゃん!」


 赤狼団が凶賊と呼ばれる由縁は、襲った村の村人は一人残らず殺し、女子供は奴隷として売り払って略奪の限りを尽くした後は村を焼き払う残忍さで有りました。


「ははは、君達は何処に行くつもりかね?ちょいと俺達と遊んで貰おうか」

(うへへへへへ)

「ヒャハハハハ!女子供は奴隷商人に売っ払うか!後はあの爺みたいに死んで貰うぜ!」


 ガルム村長が率いる避難民が到着した南西門には既に赤狼団の別動隊の10人ほどの盗賊が待ち構えています。


 別動隊の斧使いのドラ率いる盗賊達の前には、先ほどまで元気に自警団を指揮していたガルム村長達が無惨に切り裂かれた姿があり、足元には殺された自警団の面々が血溜まりの中で倒れていました。


「ガル爺!」

「ガルムお爺ちゃん!」

「くそ、どうしたら良いんだ!」

「うぅ、逃げろ。逃げるん、じゃ」






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