第11話・天国を知らなければ地獄も平常
「よいしょっと……あらら? 見かけ倒しですか? あまり強くはありませんでしたかね? 朝の訓練終了です! さあ! お肉~♪ お肉~♪」
ギリギリ……ギリギリ……プシュッ……ポタポタポタポタ……
アリシアの放ったアイシクルエッジは氷の刃を急所目掛けて射つエグい氷属性の初歩的な魔法では有るものの、基本的に動物(ビースト)型のモンスターは物理防御力や敏捷性は高くても魔法防御力は皆無であるので魔法を使えるアリシアの敵では有りませんでした。
数年程前には目の前に立たれただけで身がすくみ、吠えられただけでも泣く程怖かったマッドベアやバーサクベアは、数年後の今ではアリシアのアイテムボックスに大量に保管される大事な保存食の材料で有り、毛皮は敷物に加工したり、装備を造ったりするのに役立てています。
アリシアは師匠と訓練をした魔物の棲む森の比較的に浅い層の奥で倒したマッドベアの血抜きをして両手を血塗れの状態で解体を続けます。
「ふんふんふん♪ 綺麗に皮を剥がしましょ♪ 『ベリベリ……』乾燥させて~♪ 収納へポイっとね♪ 内臓は使える部分以外は肥料にしてポイっとね♪ 『ボトボト……』お肉~♪ 『スパッ!シュッ!』お肉~♪ 『スパッ!シュッ!』お肉~♪」
ヒュン!シュッ!
マッドベアの身体はしっかりとウオッシュの魔法で血抜きされ、傷を一切付けないように綺麗に毛皮を剥いでクリーンの魔法で綺麗に汚れを落として乾燥、薬の材料となる内臓を細かく分けて抜いては更にウオッシュとクリーンの魔法で念入りに洗浄して保存し、ブロック状にした肉や魔石を収納内にどんどん詰めていきます。
相変わらず、ただただ自然豊かで何もなく、周囲を魔物の棲む森に囲われた名も無き小さな村でのアリシアは、早朝の数時間を鍛練に費やしながらも日中は村民の手伝いや怪我人の相談などでのんびりと過ごし、自分の凄まじい能力を隠して平穏な日々を暢気に過ごしているのでした。
そして、今日も昨日と変わらぬのんびりとした長閑な生活が少女を待っている筈だったのですが、マッドベアを相手にした早朝の訓練を終え、魔物の棲む森からのんびりと村に戻って行きます。
「あ、薬草みーつけた♪ 『シュッ!』アップル発見! 『シュッ!』ハーブも有ったー!」
シュッ!シュッ!
アリシアは魔物の棲む森ルシオンから帰る途中に生えている薬草などを採取しては果物なども合わせて次々と空間魔法の収納内に放り込みました。
アリシアは収納したい対象を見るだけで収納空間に放り込む事が出来たりもします。
「よーいしょ!」
ダン!トス!
「ふう、朝の日課完了♪さあ、ご飯を食べたら通常の狩りに行きましょう!」
アリシアの本日の日課は終了し、名もない小さな村には相応しくないほどの高さを誇る魔物の棲む森側の頑丈な壁を軽々と飛び越えて村の中に入ります。
「朝ご飯♪ あっさごはん♪ ふんふんふん♪ 何にしようかな~♪」
タッタッタッタッ…………ガチャン!
「ただいま~♪ お父さん、お母さん、今日も美味しいお肉が取れました〜! お父さんとお母さんも天国で美味しいお肉を食べて下さいね〜!」
ガチャガチャ、ボッ……ジュウウウウ……
「ふんふんふん♪ くーまのお肉は美味しいな~♪ パンも上手に焼けました~♪ ちょっぴり甘いハーブティ~♪ アップルも付けちゃいましょうかね~♪」
村外れの養い親の老夫婦の残した自宅に帰って風と火の魔法で燻製にしたマッドベアの肉を炙り、粗い小麦粉だけをこねて焼いた全く膨らんでないナンのような物とハーブなどを混ぜただけのお茶で朝食を取ります。
「はあ、くーまのお肉は今日も最高♪ パンも美味しいし、ハーブティーも美味しいな~♪ アップルも甘くて最高♪ 今日も良い一日になりそう♪」
アリシアの住んでいる名もない小さな村はエルト小国に有り、エルト小国は菱形をした広大なリアナ大陸の東の果てにかろうじて繋がるエレノア半島に有ります。
その、かろうじて大陸に繋がっているような半島の中でも更に東の辺境中の辺境と云われる位の辺境にある魔物の棲む森に埋もれた村です。
リアナ大陸の巨大さは地球全体が丸ごとすっぽり収まる菱形として、その東の端の3角の先に南アメリカのような形でエレノア半島が有り、その東の最果てにエルト小国がくっついていると考えると分かりやすいでしょうか?
その規模やスケールは地球とは全く違いますが……エレノア半島のエルト小国の広さは以外と広く、地球で言えば南アメリカの約半分ほどの大きさが有ります。
そのほぼほぼ7割以上がモンスターが支配する魔境で有り、名もない小さな村は更に辺境の辺境の辺境の、そのまた辺境の魔の棲む森に隣接する地域ですので、名もない村の文化レベルは非常に低くて3000年位前の狩猟時代の日本位のレベルだと思って下さい。
食べ物は薪で焼いて貴重な塩をほんの少し振る程度、小麦粉は粗く擂り潰して水でこねて焼いただけのパサパサな味の無いパンに微かに甘い気がする位のハーブティーと、やたら酸っぱい野生のアップルが普段でもそこそこ贅沢な食べ物です。
どちらかと言えば、アリシアの食卓にマッドベアの燻製が有るのは非常に豪華な朝食といえますが……生活水準がかなり、いや非常に悲しいド辺境の村にアリシアは住んでいました。
人間、生まれた時からの慣れは恐ろしく、美味いと思えば何でも美味しいのです。天国を知らなければ地獄は地獄ではないのでした。
食事を手早く済ませたアリシアは普通の生活に戻り、皮の服に手製の弓矢とナイフに大きなカバンを持って村の中に入って行きます。
ちなみに、普通の町には現代文化に近い水準の街や、近未来的な街も存在しますが、ここは良くも悪くもド田舎でした。
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