第10話・殺人熊を相手に余裕をかます弟子
異世界から来たアリシアの師匠で有る銘もなき覇王がアリシアに能力を継承し、リアナの大気に溶けて早数年の月日が流れてアリシアは数えで十歳となりました。
この数年でアリシアの身長は伸びて百四十八センチ程となり、白銀に輝く長い髪に蒼い瞳やスラリとした白磁のような身体は見るものを惹き付ける美少女ぶりです。
「ふん♪ ふふん♪ ふーん♪」
ただし、毎日の修行に関しては厳しい師匠が居なくなり、数年間でかつての利発さが若干、否かなり薄まり、今では天然ボケに変わりつつ有りますが、リアナ大陸の東の果ての果てに有る辺境、さらに田舎のド田舎ではアリシアの利発さが必要な場面は全く無かったようでした。
「今日も森は暗いですね~♪ふん♪ふふん♪」
師匠が他界した後も魔物の棲む森での修行の一環としてビックラットやジャイアントラット、ホーンラビット、ついでにマッドベアやバーサクベアなどの魔物を狩り続けた事により、アリシアの体内のプラナは激しく増大をし、そのレベルは上がり続け、封印された状態でありながらも各身体能力や各種スキルは既に辺境に於いては最強であり、大陸内部の熟練の将軍などを簡単に超えるまでとなりました。
ドズン! ドズン! 「ゴアアアァアアアーーー!
「くーま♪ くま♪ 訓練開始ですかねー」
今日もアリシアは日が明ける前から師匠と修行した魔物の棲む森の比較的に浅い層の奥で巨体のマッドベアを相手に軽く訓練を開始します。
師匠に鍛えられ、五歳から毎日のように凶悪な魔物を相手に訓練を行ってきたアリシアにとっては、目の前にいる体高三メートルオーバー、体重八百キロ程度の巨体を誇るマッドベアは既に驚異ですらなく、ほぼほぼ狩る目的は毛皮や薬の素材に空間魔法の収納内への保存食を得る為の獲物としての意味合いしかありません。
そのアリシアには肉体と精神の奥深くに宿った精神体である師匠の特殊な能力封印と認識阻害の結界が今も施されており、その身体能力や技能は本来使える能力と比べると全力の一割以下程度に抑えられていました。
それでもアリシアは、辺境では恐らくは最強の実力を持ち、このような田舎の小さな村に居て良いレベルではない知識量と身体能力の高さです。
ただ、魔物の棲む森を歩く今のアリシアはボロ革の継ぎ当てだらけで作られた服やボロ靴といった軽装であり、目の前にいる凶悪かつ巨大なマッドベアを相手にするには、その装備は防御力など皆無のただただ丈夫なだけの手製の皮の服であり、その手に持つ武器もアリシア手製の弓矢とナイフを持つだけであり、それは些か……少しどころか、かな~り心許ない装備でありました。
「ゴアアアアアァァァァーーーー!」 ガスン! ドズズズゥゥゥン!
巨大なマッドベアが鋭い一撃で腕を振り抜きアリシアに鋭い爪を喰らわそうとしますが……それ以上に素早いアリシアはスラリとそれを避け、巨大な爪は魔物の棲む森の大地に深い穴を穿ちます。
「ふむふむ……朝の訓練にはもってこいな熊さんですねー♪」
少々暢気過ぎる気がするアリシアの呟きは、彼女がマッドベアなど全く脅威とみなしていない事を裏付けていましたが、それは少々マッドベアを舐めすぎではないでしょうか?
マッドベアは銅級上位魔獣であり、例えベテランの鉄級上位冒険者でも六人以上のパーティー戦推奨の体長三メートル、体重は八百キロほども有る巨大な人食い熊であり、モンスターとしてはかなり強い部類に入ります。
その肉は筋肉質で、そこそこ固いながらも食用で有り、プラナが適度に抜けて熟成させると極上の霜降り肉となります。
それはモンスターとしては味は最高に素晴らしくて、かなりの需要があり、その分厚い毛皮は敷物に防具にと様々な使い途が有り、その体内に有る大量のプラナが形を成した魔石はそれなりに大きく高い価値がありました。
「ゴアアアアア!」 ブォン! ブォン!
その凶悪なモンスターであるマッドベアと遭遇して数分、未だにアリシアは間近に迫るマッドベアの鋭い爪を右に左に巧みにかわしながらも、その身体の動きを暢気に観察しています。
ゴス! バキバキバキバキ……ドドォォォン!
「おう!これはなかなか強いのではないでしょうか?」
アリシアが長閑に観察している間にも巨体のマッドベアは鋭い爪を振り回し、周りの木々を薙ぎ倒しては太い木に鋭い傷跡を残していくのですが、小さなアリシアからは未だ暢気さは消えません。
巨体のマッドベアも、そろそろ目の前にいる小さな獲物の態度に腹を立てたのか、はたまた元からそうで有るのかは分からない様子ではありますが、目を真っ赤に血走らせて怒り狂っては鋭い爪を空振らせて周りの木々に叩き付けました。
しかし、その素早く鋭い爪の凶悪な一撃も更に数段は素早いアリシアには掠りもしないようです。
「ゴアアアアア!」
ガスン! ガスン! バキバキ! ドドォォォン!
そして、アリシアに一撃を浴びせようとする鋭い爪が空振って大木を一本倒しました。
「ふむふむ、これはあまり訓練にはならないようです。そろそろ、こちらから攻撃しましょうかね?」
アリシアは尚も目を血走らせて怒り狂いながらも爪を振り回し続けるマーダーベアの素早く強靭な攻撃を余裕を持ちながら見切って避けつつ、師匠譲りの強力な魔法を素早く組み立てていきます。
「ゴアアアアア!!」 ガスン! バキバキ! バキバキ!
「ダメですよ熊さん!そんなに爪を振り回しても私には当たりません。では、さようなら。アイシクルエッジ!」
そして……アリシアの人差し指の爪先に蒼い魔法陣が光った瞬間、凄まじい勢いで青く光る鋭い氷の刃がマッドベアの眉間を綺麗に撃ち抜きました。
ドス!「ゴア!?」ズズゥゥゥゥン……
今まで怒り狂ってアリシアを襲っていた筈のマッドベアは何が起こったのか分からないうちに倒されてしまいますが、それを行ったアリシアの暢気さは全く変わりませんでした。
この辺りがアリシアの頭のネジが数本単位で外れているのではないかと疑われる瞬間です。
フワァ……「うーん、マッドベアのプラナは気持ち良いですねー」
巨体のマッドベアから放出された大量のプラナがアリシアへ降り注ぎ、推定八百キロ以上の重さが有る巨体のマッドベアの身体をよっこらせとアリシアが簡単に持ち上げ、魔物の棲む森に自生する大木の太枝に太い縄を持ってジャンプし、マッドベアを逆さまに吊り、首を切って血抜きをしていきます。
こんな事を普通にやってしまうのが少しばかり無自覚なサイコパスなんではないでしょうか?
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