第7話・お爺さんと弟子


「うーむ、ところでじゃな、アリシアはこの森には自由に出入り出来るのかの?」

「できます!」

「そうか、ならばじゃな。お主、わしの弟子にならんか?」

「でし?」

「うむ、わしがアリシアに色々と教えてやろうかと思っての」

「おじいちゃんが、いろいろおしえてくれるの?おじいちゃんみたいにつよくなれる?」

「ああ、なれるさ。わしの技術や知識、色々な事を全て教えてやろう。どうじゃなアリシア?」

「あい! おしえてください!」

「ぶわっはっは! よーしよし、アリシアのような真っ直ぐな心根を持つ者に出会えたのも何かの縁じゃな。たまに遊びに来るが良いぞ。これは新しいお守りじゃ」

「あい! あそびにきます!」


 その後、銘無しの老人は勇敢で真っ直ぐな心根を持つアリシアの事が気に入り色々な知識と技術を教える事となります。


 銘無しの老人は強く作った魔物避けの首飾りを再度アリシアに渡し、暇な時には魔物の森に来るよう小さなアリシアに命じました。


 アリシアは命の恩人である銘無しの老人を師として尊敬し、暇を見つけては魔物の棲む森ルシオンの地に入る事となります。


「おうおう、今日も遊びに来たか。では、今日は果物の採り方について教えてやろう。果物は好きかね?」

「あい!だいすきです!」

「うむ、森には色々な果物が生っておる。美味しい果物が取り放題じゃよ」

「やったー!」

「よーし、着いて参れ弟子よ」

「あい!」


 銘無しの老人は日々の生活に役立つ知識をアリシアに与える事とし、先ずは魔物の森にある果実や薬草などの採取方法からアリシアに教授を開始しました。


 アリシアは師匠の話を良く聞き、様々な薬草や食用の植物などの知識を深めます。


「アリシアや、こっちに薬草が有るぞ」

「あい! これですか?」

「そうじゃな、これが怪我に良く効く薬草じゃよ」


ガサガサ……「グオオオオォォォォォォォォォーーーー!!」「アキャーーーーー!」


プシュ……ドサッ……「こんの馬鹿熊が喧しいわ! 可愛い弟子が怖がるから静かにせい! って……なんじゃ? もう死んどるのか、なんちゅう弱い奴じゃ。アリシアや、帰りの土産に熊肉はどうじゃ?」

「わーい! おにくだー!」

「ぶわっはっは! 弱っちい馬鹿熊でも役に立つもんじゃな。美味しい部分だけ持って行くのじゃよ。残りは森の獣の食事となるでな」

「あい!」


 当然、採取時には危険な魔物の襲撃があったのですが師匠がその悉くを瞬殺しました。


 修行の日々を薬草などの採取に費やし大量の薬草を手に入れたアリシアは更に老師に教えを乞います。


「よーしよし、沢山の薬草が手に入った訳じゃが……このままでは効き目が弱いんじゃ。そこで薬の調合の仕方を教えてやろう」

「うにゅ? ちょうごう?」

「分からぬかの? 薬草を薬にする方法じゃな」

「おくすり? にがいのですか?」

「良薬は口に苦しと云うのが世の中の常識じゃが……わしは苦いのは好かん! 甘い薬を教えてやるわい」

「やったー!」

「ぶわっはっは! すこ~し、ほんのすこ~し難しいが覚えて損は無いぞ」

「あい!」


 次に師匠は採取した薬草などの複雑な調合方法を伝授しアリシアは瞬く間にそれを覚えてしまいました。


 複雑な薬の知識も手に入れ、アリシアは旅商人に貴重な薬剤を売って村の人々の生活を支える事となります。


「いってきま~す!」


タタタタタタ……


「おう、気をつけてな!」

「今日も魔物の棲む森に行くのかい?また腰に効く薬草が生えてたら摘んできておくれアリシアちゃん」

「はーい!いってきま~す!」


タタタタタタ……


「ハハハハ……アリシアちゃんは何時も元気だなぁ」


 アリシアが魔物の森に入るようになって数ヶ月……危険極まりない魔物の棲む森に度々入るアリシアをアニス院長や孤児仲間、村人達は止めるのですが、小さなアリシアは村に有益な品を数多く手に入れてくるため深くは言えませんでした。


 ある程度の日が経過するとアリシアが魔物の棲む森に行くのが当たり前のようになり、ついには誰も気にしなくなります。


 小さなアリシアが魔物の森の浅い場所を庭のように歩くようになる頃、名無しの師匠はアリシアに簡単な魔法や錬金術を覚えさせる事にしました。


「ししょー!」

「うむうむ、アリシアは今日も元気よの……もう、この森の外縁はお主の庭じゃの。うーむ、弟子よ……お主は魔法や錬金術の力を覚えたくはないかの?」

「まほー?れんきんじゅつ?」

「うむ、それだけの才、このまま埋もれさせるのは惜しいからの。魔法や錬金術の一つも覚えておけば色々と良いと思ってな。どうじゃ? 一つ覚えてみんか?」 

「はぇ?」

「ふーむ、魔法や錬金術は分からぬかの? まあ、色々と便利な力よ。飯を食う時に使う竈の火起こしや水瓶に入れる水の調達がし易くなるしの。すこ~し、ほんのすこ~しだけじゃが……最初はビリビリするかもしれんがの」

「まほー、つかいたいです!」

「うむ、そうじゃろう。そうじゃろう。では修行じゃ! 背中を出しなさい」


 説明もそこそこに師匠はアリシアの背に両手をかざすと体内の膨大な生命エネルギーで有るプラナを活性化させ、魔法の力の元となるマナを魔物の棲む森の大量のエネルギーで有る魔素と混ぜ合わせてアリシアの体内に流し込みました。




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