第6話・なんか最近見た光景
老人から貰った首飾りの力で魔物の森の奥に入って行くアリシアでしたが、再び今度は巨大なマッドベアに襲われてしまいます。
マッドベアの爪の一撃がアリシアの首をかすり、老人に貰った首飾りが千切れ飛んだ瞬間、再び魔方陣が輝き、光の円がアリシアを包み込みました。
「キャーーーーー!」ブウゥゥゥゥゥゥン……カッ!
「グオオオオォォォォォーーーーーーー!!」
ガシン! ドズン! ドズン! ガシン!
「わしの森でうるさいヤツよの……ほれ、黙れ熊公って……うん?なんか最近見た光景じゃな」
ヒュン、プシュ、ボト。ガクガクガクガク、プシュ、プシュ、ピクピク、ドズズズーン!「あ、おじいちゃんだー!」
「はあ?なんで、昨日のお嬢ちゃんがここにおるんじゃ?」
次の瞬間、先日と同じく不思議な老人がマッドベアを一瞬で倒し、アリシアの姿を見て驚いた後、やれやれと困った顔をします。
「おじいちゃん、またたすけてくれてありがとう!」
「う、うむ、それで薬は役に立ったかの?アニスとやらはどうなった?」
「うん、アニスせんせ~はたすかったよ! おじいちゃん、ありがとう!」
「そうか、それは良かったの。しかし、この子は勇敢な子じゃが、少々無謀過ぎるか?しかし、ここ20数年は人と話をしとらんしの、うーむ」
「どうしたの?おじいちゃん」
「お主、この年寄りとすこ~し話でもせんか?」
「いいよー!」
「うむ、ではこちらじゃ」
アリシアはアニス院長を救ってもらった礼と再び助けて貰った礼をのべると、不思議な老人は暫し考えた後、小さなアリシアを森の奥の小屋に連れて行きました。
「あ、おうちがあるー」
「うむ、わしのこちらでの住み家じゃ。遠慮せんで良いぞ」
「あーい!」
魔物の森にある小さな広場には人が一人住むには十分な広さの小屋があり、そばには畑もあります。
老人はアリシアを小屋の中に招き小さな椅子に座らせました。
「うむ、久しぶりの客じゃな……何か旨い物は有ったかの……お、そうじゃそうじゃ、闇王のとこから持って来た葡萄が有ったわい。さあ、食いなさい」
「わー、これはなにー?」
「うん?これはただの葡萄じゃよ」
「ぶどー?」
「まあ、皮ごと食べてみなさい」
もぐもぐ……「あまーい!」
「ぶわっはっはーーーー! そうじゃろう、そうじゃろう、たんと食え」
「おいしー!」
「うーむ、ところで……お主は何処から来たのじゃ?」
「えーと、エルトってくにのー、なまえがないむらだよー」
「ふあっ!? あの東の果ての辺境か?」
「えーと、そうかな? せんせーは、エレノアはんとーの、いちばんひがしっていってたー!」
「なんてこった……まさか辺境の辺境に有るエレノア半島の更に辺境のルシオンに封じられとったのかよ……そりゃ、誰も助けに来ん筈だ……クソ神の野郎」
「おじいちゃん?」
「うむ、なんでもないぞ嬢ちゃん。いや、アリシアじゃったな」
「あい!アリシアです!」
魔物の森に住む不思議な老人の小屋に招かれたアリシアは老人からもてなされて暫しの休息をとります。
老人は久しぶりの珍客に興味を持ったようでした。
そもそも魔物の棲む森に入って来れる者は居らず自らも出る事は出来ないのですから……。
「アリシアや、わしに外の様子を聞かせてくれんか? 今はどんな世界となっている? 我が、いや、リアナ統一王国はどうなったかの?」
「リアナとういつおうこく?」
「そうじゃ、リアナ統一王国じゃよ」
「いまはないよ?むかし、すごいひとがせかいをすくったけど、すぐにいなくなっちゃったんだって。それでみんながけんかしちゃったの」
「今は無いのか。それで国々が戦争を始めたか、はあ、俺の馬鹿弟子達はいったい何をしてんだよ」
「どうしたの?」
「うーむ、すこ~し頭が痛くなっての」
「あたまがいたいのー? だいじょうぶ?」
「大丈夫じゃよ。お主はほんに優しいのぉ」
「おじいちゃんはここでなにをしてるの?」
「わしか?わしは世捨て人じゃな。森の外には出ずに暮らしておるのだよ」
「それ、さびしくない?」
「寂しい?そうじゃな。うむ、たしかに寂しいかもしれん。まあ、森はそこそこ快適なもんじゃよ」
「おじいちゃんのおなまえは?」
「わしか?わしの名前は……あ、ぐぅ……(ち、未だ名は名乗れぬのか……)わしには名乗れる名前は無いのじゃよ。強いて言えば『銘無し《ネムレス》』と云うのが今のわしの名前かの」
「ネムレスさんなの?」
「うむ、そうじゃな」
「おじいちゃんは、なんでそんなにつよいの?」
「うーむ、何故に強いか? はて、わしは単なる老人じゃぞ? すこ~し、ほんのすこ~し鍛えとるがの。まあ、ただの爺さんじゃな」
「でも、おじいちゃんはわたしとアニスせんせ~のヒーローです!」
「ぶわっはっはーーーー! そうか、わしはヒーローか! アリシアは実に嬉しい事を言うの。久しく心が温まった気がするわい。実に二十数年ぶり位じゃな。愉快、愉快、ぶわっはっはーーーー!」
アリシアは老人に色々と質問され、老人にも色々と質問して名前を尋ねると、老人は自らをネムレスと名乗ります。
名無しの老人は外の情報にほとほと呆れておりアリシアは名無しの老人の話す壮大な昔話に聞き入っていました。
老人は自らを世捨て人の単なる老人と言って笑っていますがアリシアにとっては自らとアニス院長の命の恩人です。
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