第5話・間に合わなかった花と老人の秘薬



 大切な人を救うために単身、無謀ながらも魔物の森に分け入り、見事に薬を探してモンスターに襲われ、老人に助けられたアリシアは老人に盛大に叱られるも、その勇敢さと優しい心根に心打たれた老人は特別にアリシアを助けることにします。


「ブワッハッハー。よし、お主の心根、まことに素晴らしきかな……気に入ったぞ娘っ子よ。これをやろう」

ちゃぽん「これはなんですか?」

ちゃぽちゃぽ「ふむ、コレはエリ、ごほん。ふむ、難しい話は良いか、それはどんな病も治せる凄い薬と簡単な魔除けじゃわい」

「もらってよいのですか?」

「良い良い、持っていくが良い。ワシには不要な品じゃし、その首飾りは魔物を遠ざけるのじゃ。小さな瓶の薬は魔熱覚ましの白花が効かぬ時は使うが良いぞ」

「ありがとうございます!」

「うむ、ではな。ほんに愉快、愉快」


 スパッ、サクサク……ボトボト……老人は持っていた袋に手をいれると輝く液体の入った小さな瓶と木の実や毛糸を繋げた首飾りを取り出した。


 小さな瓶の輝く液体はどんな病も治し、首飾りは魔物避けになるという。


 老人は無謀ながら勇敢で心優しいアリシアにそれらを渡すと斬り倒した巨大なバーサクベアを解体して不思議な袋におさめて森の奥に入っていった。


 あとにはバーサクベアの頭部と内臓を埋めた土の山のみが残った。


むぎゅー……「ゆめ?じゃない……」


 夢を見ていたような出来事だったが、小さなアリシアは帰り道を不思議な首飾りの力で守られ村に帰ります。


タタタタタタ……「ほんとうにまものがいない?アニスせんせ~!」


 しかし、急いで修道院に向かうと数刻の差でアニス院長は既に息を引き取っていました。


「アリシアちゃん!それはしろいはな?」

「アニスせんせ~はどこ?」

「アリシアちゃん……まにあわなかったよ」

「アリシアちゃん。う、う、アニスせんせ~はしんじゃったよ~。うわーん!」

「せ、せんせ~!アニスせんせ~!ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。まにあわなかった。せんせーーーーー!!うわあぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」


 アリシアはほんの少し、タッチの差で間に合わなかったのです。


 もう少し早ければと悲しみにくれるアリシアと孤児仲間達でしたが、アニス院長の亡骸を囲んで涙を流しました。


ピカッ、ポワワワワ。


ちゃぽちゃぽ『ふむ、コレはエリ、ごほん。ふむ、難しい話は良いか、それはどんな病も治せる凄い薬と簡単な魔除けじゃわい』


 その時、老人に貰った小さな瓶が強く光輝きます。


「アリシアちゃん、それは?」

(私を、その者に使いなさい。魂が身体を離れる前に、早く、私を振りかけるのです)

「おじいちゃんのくすり? ひかってる……えっ? おくすりをアニスせんせーにかけるの?」


ピシャッ、パシャッ、カッ!!「アニスせんせーがひかってる?」

「え!? なに!?」

「う、うーん。ここは、孤児院?? 私は死んだのでは?」

「「アニスせんせーーーーー!」」

「みんな?私は、どうなってるのでしょう?」

「せんせ~が若くなった~!」

「せんせ~! びょうきは? くるしくない?」

「あら? この手は?え!? えええええぇぇぇぇええええーーーー! シミ一つない?私若いわ!! 病気も治ってる!!」

「「せんせーーーーー!! よかったー!」」

「これは……奇跡?聖なる女神リージアよ……感謝致します」


 その輝きを見て、小さなアリシアは少しの希望にすがり、不思議な老人に貰った小さな瓶の中の輝く液体を院長に振り掛けました。


 すると、院長の身体を不思議な光が包み込み、死んだ筈のアニス院長が目を覚まします。


 しかも、リム熱の病は初めから無かったように消え、その身体は司祭の修行を諦め、長く孤児の為に働き四十数年経た老いた身体から、修行に出たばかりの十代半ばの若く健康な身体に若返っていました。


 小さなアリシアと孤児仲間達は喜び、生き返ったアニス院長も神の奇跡に涙します。


まあ、実際は神の奇跡ではないのですが…。


「あれ? おくすりのびんは……まあ、いっか」


 アリシアが不思議な老人に貰った小さな瓶は跡形もなく消え去り、孤児仲間達も何がおきたか分からりませんでした。


「うーん、魔物の棲む森で不思議な老人に会って不思議な薬を貰った?」

「そうだよ! すごくつよいおじいちゃんがたすけてくれたの!」

「誰も入れない魔物の棲む森に老人? アリシアちゃん、夢でも見たんじゃないかな?」

「でも……」

「うん? ちょっと待て!アリシアちゃん!それは、その手に有るのは『魔熱覚ましの白花』じゃ?」

「うん。もう、いらないから、みんなにあげる」

「「え!? えええええぇぇぇぇええええーーーー!」」

「これは!? 本物の『魔熱覚ましの白花』じゃないか!!」

「近隣からリム熱の人を集めろ! これだけ有れば皆が助かるぞ!」

「アリシアちゃん、お手柄だ!」

「アリシアちゃん! ありがとう!」

「うん、よかったね」


 勇敢なアリシアは魔物の森の不思議な老人の話を村の大人や孤児仲間にしましたが……それは夢みがちな年頃の少女の見た夢と思われているようです。


 しかし、魔物の棲む森で手に入れた『魔熱覚ましの白花』はアリシアの手に有り、それは近くの他の村々でリム熱に苦しむ人々の病を治す結果となりました。


「あのおじいちゃんはゆめじゃないもん……おじいちゃんにありがとうっていわなきゃ!」


 とりあえず、アニス院長や村人達は救われたので安心したアリシアでしたが、名も聞いていない不思議な老人に礼を言うために魔物の森に再び入ります。


タタタタタタ……「おじいちゃんはどーこかな?」


ドズン! ドズン! 「グオオオオォォォォォォォォォーーーー!!」


「アキャーーーーー!またクマがでたーーーー!」


ドズン! ドズン! 「グオオォォォーーーー!」


タタタタ……「いやー!こっちにこないでー!」









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