第5話 回帰

「麗子先輩、大変です!」


優香はドタバタした様子でスマホの画面を見せた。


「えっ、えっ、どうしたの?」


麗子はあまりにも急な優香の動作に驚いた。


「どうしたのじゃないですよ!麗子先輩!あの脳トレアプリ消えてしまったんです」


「えっー、あれ消えちゃったの?」


「はい、そうなんです。愛菜ちゃんにスマホを壊されたから修理出したんですが、再起動すると、アプリなかったです。店員さんにアプリが消えたことを話したんですが、『そんなアプリ入ってた痕跡はない』の一点張りで」


優香は、久しぶりにたたみかけるように話した。


「麗子先輩のスマホってまだあのアプリ入ってますか?見せてくださいよ!」


「うん、ちょっと待ってね」


麗子が鞄からかスマホを出そうとしていると、優香はそのスマホを出すという短い時間すらも惜しい様子で麗子の鞄を覗いた。


麗子が自分のスマホのロックを解除して、画面をスワイプさせた。


「あれ、アプリがない」


「えっー、ないんですか!麗子先輩!」


優香はえらく慌てた様子で、麗子のスマホを手に取った。


「見せてください!」


優香は麗子のスマホをひったくるように手に取った。


「やっぱりない」


優香は肩を落とした。


流石の麗子も今の優香の行動にはイラッとしたが、自分を律して大人な対応に努めようと心に強く誓った。


「なんでなくなったんだろうね?サービス終了とかかな?ちょっと検索してみよう」


麗子は優香からスマホを取り返し、検索しようとした。


「私ももうとっくに検索しましたよ。見つからなかったですよ」


まるで目の前でドアをきつく閉めるような口振りの優香の言い方に麗子は苛立ちを感じた。


麗子は思い出した。そもそも優香はこんな奴だった。


事あるごとに愚痴を麗子にぶちまけては聞いてもらっても何の感謝もないような人間だった。


最近はアプリのおかげで性格や能力が改善していたが、アプリがなくなったら元の優香に戻る。


この事実が麗子を更に落胆させた。


「困ったね」


麗子は心の底からそう思った。


あぁ、結局アプリの力がないと彼女はこんな有様なんだ。麗子はまるで神様に弄ばれた気分だった。

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