第3話 田中くんは望みたい

「人が一人で何かを抱えるっていうのは、相当大変なことだ。

 だから苦しみや嬉しさを二人で、いいや三人で分け合えたらいいと思う。


「それって、貴方が協力するってこと?」

 

 嫌そうな顔を彼女は浮かべた。

 けれどここは絶対に引けない。


「そうだ。それで、こうやってさ、かずさの子を不幸にしないように、一つの視点で捉えないようにしたら、少しでもかずさの子は幸せに近づけるんじゃないかな」


「ほんとうは私とかずさだけで育てたかったけど」


「僕はたまに顔を出すだけでいい。そこで愛が変な形になっていたら、僕は君を止めるよ」


「ならないわ」


「わかんないよ、そんなの」


「じゃあ、たまに頼るなら、いい?」


「そうだね。たまにじゃなくても、辛いと思った時、いつでも頼ってくれていい」


「わかった。ありがとう」


 そう言って、彼女は微笑んだ。

 きっとその微笑みは僕に向けられているものじゃない。


 幼馴染で、たった一人の恋人であるかずさに向けられているのだろう。


 そして――彼女は海外へ飛んだ。

 この日本では代理母出産が認められていないからだ。


 数ヶ月がすぎたある日、有子からメールが届いた。

 それは写真で、妊娠検査薬が映っていて、線が二本現れていた。

 ちょっと意味がわからなかったので、妊娠検査薬についてぐぐってみた。

 つまり――彼女は妊娠したとのことだった。


 変な関係に巻き込まれてしまったと思う。

 だけど、有子がもしも子を愛せなかったら、僕が子を愛そう。

 僕はもう父なのだから。


 気づけばずっと僕の中で渦巻いていた、家族内で感じていた疎外感など何処かに消えてしまっていた。

 新しい家族ができたからかもしれない。


 こうして、僕たちの歪な歪な関係は始まったのだった。

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百合ヶ丘さんは、子を産みたい。 六花さくら @sakura_rikka

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