第5話 価値観の相違点
エレーナは、リオーラと仲良くなり、家族ぐるみでの付き合いが多くなった。
休日には買い物に行ったり、食事を楽しんだり、魔法を共に勉強したり……と。
そんな中でエレーナが王宮に拾われてから1ヶ月後、リオーラの生家・「メイフリード家」が身元引受人となったのである。
エレーナは剣術や魔法の習得も、日増しに上達していき、リオーラも負けじとエレーナの天才ぶりに喰らいついて行く。
やがて他の貴族達もエレーナを徐々に認めるようになっていき、エレーナはぎこちないながらも少しずつ王宮での過ごし方にも慣れてきていた。
そんなある冬の日のことである。
リオーラがエレーナの寝室に来て、何やら話しかけてきた。
「ねえ、エレーナ……エレーナ故郷行ってみたいんだけど……いいかな?」
「……なんで?」
「だってもっと知りたいんだもん、エレーナのこと。折角友達になったのにエレーナ、全然自分のこと話してくれないじゃん。」
「……ヤダ……」
エレーナは即答で拒否する。
バンテルは女の子、ましてや貴族が来るところではない。
そんな場所にリオーラを連れていくわけにはいかなかった。
「えーーーーーー!? なんでーーーーー!? いーーーーじゃん、ねーーーーーー!!!」
駄々をこねるリオーラ、どうしても行きたいようだ、しかしエレーナも忠告する。
「……アンタが行くようなところじゃないから……」
「なんでーー!? 逆に楽しみじゃん! ダンジョンみたいでさー!」
これを見てエレーナは、仕方ない、これは現実を見せるしかない、そう思い、折れた。
「……そこまで言うならいいよ。だけど……後から行かなきゃよかった、なんて絶対言わないでよ? あそこ絶対に危ないから。」
「やったー!! じゃ、明日行こう?」
ニコニコしながらエレーナにそう喜びを見せるリオーラ。
だが、エレーナは複雑そうな顔を浮かべる。
「……あの町ではアンタみたいな能天気な奴が一番命を落とすよ。」
「えー? どういう意味?? エレーナ??」
「『平穏』を知らない子供と……『平穏』しか知らない子供では価値基準が違う。じゃ、お休み。」
リオーラは疑問に思いながらお休みー、と言い、エレーナの寝室を後にした。
翌日。
2人はコートを着て、バンテルへと足を運んだ。
エレーナにとっては久しぶりの故郷ではあったが、リオーラは初めて来る「国の闇」。
絶句と同時に呆然としていた。
「え……なに、ここ……」
エレーナにとっては大方予想通りだったので、リオーラの顔には泰然自若としていた。
「……貴族の女の子が来るようなところじゃない。とりあえずフード被って。女の子とバレたらまずいことになるよ。ロリコンもいるわけだから。」
「う、うん……」
エレーナは黒いフードをリオーラに手渡す。
リオーラは頷いて目深に被った。
エレーナもフードを目深に被った。
こうして2人は、バンテルへと入っていった。
リオーラの視界に入るのは、死んだように生きている人間の目と古ぼけた姿、ゴミ山から漂う悪臭、そして中心街では聴かれなかった暴力的な喧騒……リオーラにとってはいるだけで気分が悪くなるものだが、エレーナのためだと言い聞かせて気丈に振る舞った。
「……よくこんな環境で生きてられたね、エレーナ……」
本能でエレーナは感じ取っていた。
自分なら生きていられないと。
前日の余裕はなんだったのか。というくらいに恐怖心を覚えていた。
「今思ったら本当にそうだと思うよ……ここは腕っぷしの強いやつと狡賢いやつしか生き残れない。スラムはそんなところだよ。」
エレーナは歩きながら続ける。
「生きるためならなんでもした……喧嘩もしたし、食べ物も盗んだし……ただ生きたくて必死だった。」
「そっか……ご、ごめんね、あんなこと、初めて会った時言っちゃって……」
エレーナは、いいよそれは、と言い、続ける。
「……路地裏に隠れて生活してた。小さくて親もいない子供が生きるにはそうするしかなかった。今はリオーラの家に泊めてもらってるだけありがたいと思うよ……リオーラ、こんな私だけど……怖いと思う?」
「怖いよ、そりゃ……でも……同時にスッキリしたかも。なんでエレーナがあんな態度取ってたのかな、って。だから普段のエレーナを知ってるから怖くないよ?」
「そっか……」
2人はエレーナが過ごした路地裏に向けて歩いて行くのだが、ここで事件が。
「おーおー……ここにいんじゃねえか……特上のメスガキ共が……」
2人の前方に、大柄な男が現れた。
エレーナにとっては恐れていた事態が起こる。
何事かと怯えるリオーラを尻目に、エレーナはその男を睨みつける。
周囲を見ると、5人ほどの男に囲まれていた。
仮に捕まれば輪姦は確実だ。
一瞬にして逃げ場を失った2人。
どうにかして活路を開かねば……その時、前方の男が命じる。
「おい、このガキどもをひっ捕らえろ。そんで犯し抜いちまえ。」
「アイアイサー!!!」
号令と同時に男達は一斉に襲いかかる。
「ど……どうしよう、エレーナ……!!」
「……大丈夫、伏せてて……リオーラは私が守る!!」
エレーナは怯えっぱなしのリオーラに対し、伏せるように命じた後で戦闘態勢に入った。
「正直使いたくはなかったけど……捕まるくらいならぶっ倒す!!」
危機を脱するためなら暴力も厭わないエレーナの闘志に火がついた。
ここからエレーナが訓練した成果を見せることになるのである。
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