第3話 初めての剣と初めての友達
エレーナが王宮で寝泊まりするようになってから、三日が経過していた。
相変わらず獣のようなオーラを放っていたエレーナは、貴族ばかりの王宮ではかなり浮いていた。
エレーナの勇者の素質を見抜いた兵士が今は身辺を管理していたとはいえ、貴族の陰口はエレーナの耳に入ってくる。
貧民街の中でも凶悪な「バンテル」から生まれた勇者など、認めたくはないだろう、嫉妬の念も合わさって醜悪なものに映るし、その度にエレーナは我慢をしなくてはいけなかった。
信任を得るために我慢を強いられる生活、慣れていない規則正しい生活。
これがストレスを溜める要因にもなっていた。
昼食後、エレーナは兵士に声を掛けられた。
「エレーナ、剣を振ってみるか?」
兵士は目を輝かせて、木刀を持っている。
「……振ったことないのにいいの?」
「ああ、勿論だ。ちゃんと教えるから。」
ということで、庭に連れられたエレーナなのであった。
エレーナは手取り足取り教えられ、剣を振るう。
持ち方、足取り、身体の使い方……一挙手一投足を丁寧に教えられる。
「じゃあよ……俺と実戦、行ってみるか?」
「うん……」
ギュッと剣を握り、兵士はエレーナと相対する。
(……すげえな……コイツが剣を持っただけで威圧感がヤベエ……!! ガイコツ剣士でも剣豪系モンスターでも感じなかったな、この雰囲気……!! けれどまだガキだ、コイツを一人前にするのが俺の役目だからな……!!)
思わず顔がニヤつく兵士だが、エレーナは今にも飛び出しそうであった。
「さあ来い、エレーナ!!」
エレーナは軽く頷き、素早く踏み込む。
思い切り振り下ろすが、兵士はいとも簡単に止めた。
だがエレーナはここからだった。
持ち前の野性で、次々に変則的な剣技を繰り出していく。
兵士は対応に精一杯だった。
何せ軌道が読みにくいだけでなく、速い。
クリーンヒットしないだけマシだった。
(コイツはスゲエや………!! 流石に勇者の器だぜ……!! だが……!! 俺も負けらんねえな!!)
独特なタイミングの隙に剣を振るう兵士。
だが、エレーナは驚異的な運動能力を発揮し、右足の親指だけで急激な方向転換をし、躱す。
そしてガラ空きになった首に木刀を打ち込んだ。
兵士は思い切り吹き飛ばされた。
「ゲホッ……!! 流石勇者だな……こりゃ天才だ……!!」
「……ゴメン、やりすぎた……」
「こりゃあ数日後には俺は相手になってねえかもなー……ハハッ、これからが楽しみだな!! エレーナ、今の感じでいい、これから毎日振ってけよ。お前は凄い勇者になれる!! っと、仕事か……じゃ、また晩飯の時に呼ぶからな!!」
兵士はそう言ってエレーナの元を立ち去って行った。
エレーナは尚も素振りをしているところだった。
忘れないために、と。
と、ここである女の子が偶然通りかかった。
「あれ!? 貴女が噂の勇者様!?」
赤い髪をしたその女の子は、おてんばに、明るい声で声をエレーナに掛けた。
だがエレーナは素っ気ない。
「……邪魔。今訓練中だから。」
獣のようなオーラを発し、突き放そうとするが、その少女は尚も寄ってくる。
「えー? つれないなー……じゃ、私お水持ってくるから!!」
「……」
赤い髪の少女は井戸まで走って行った。
また1人になったエレーナは集中し、素振りを敢行していくのであった。
数分後、赤い髪の少女はまた来た。
ベンチに座って休憩するエレーナの横に座る。
「はい、お水!!」
「どーも……」
エレーナはグイッと水を飲み干す。
汗をかいた体によく染み渡った。
「私はリオーラ!! 将来は魔法使いを目指して勉強中なんだ!!」
「ふーん……」
「なんでそんな素っ気ないのさ、さっきから!! ねえ、勇者様がなんで!?」
「……逆にリオーラはなんで私に声掛けるの?」
「そりゃ格が高いからよ、私より。私、貴族の娘だもん。そりゃ勇者様、って聞いたら格が上よ。」
「やっぱり貴族の、なんだ……」
エレーナは訝しげな顔になり、ベンチから立ち上がる。
そしてそのまま立ち去っていった。
「あ、ちょっと!! 勇者様!! ……ったく、なんなの……勇者様は民に優しいんじゃないの……??」
リオーラも後を追うように立ち上がり、戻って行った。
エレーナは部屋に戻り、剣を素振りする。
(……貴族の子が……私に声を掛けるなんて初めてだ……でも……やっぱり貴族はダメだな……苦手意識が強いし……でもリオーラ……いいヤツっぽかったし……明日また……話しかけてみよ……)
エレーナはこの時はまだ気づいていなかった。
エレーナとリオーラの出会いが、友情を紡いでいくことになるのだと。
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