第2話 王宮での生活

 エレーナは王宮へと連れられた。


それも王の間に。


エレーナの前には現国王「ジアルガ=アルタルキア3世」が。


白髪と白い長い髭を蓄えた老人の風貌ではあったが、彼はかつて「歴戦の雄」と言われてきており、その威圧感が凄まじかった。


「情報は聴いておる。……その娘が勇者か。」


「ハイ。左手に横3本線の紋様が……」


と言って、兵士はジアルガにエレーナの左手の甲を見せた。


「フム……確かにあるな。正真正銘の勇者、ということじゃな。……何処の出じゃ。」


「恐らくは……『バンテル』からかと。」


ジアルガは国屈指の貧民街スラム・バンテルという情報を聴き、目を見開いた。


「なんと……あの『バンテル』からか。……勇者とは本当に数奇な運命を辿るものよ。」


ジアルガは状況を飲み込み、エレーナの目を見る。


エレーナはジアルガをギロリと睨みつける。


まるで獣のような雰囲気を醸し出しているエレーナ。


とても女児とは思えない異質な空気を纏っていた。


「ホウ……面白いな。この私を睨み付けるとは……気に入った。」


ジアルガはフッ、と笑った。


「……エレーナを浴場へと送り届けよ。まずは身綺麗にせねばな。連れて参れ。」


「ハッ。……ホラ、行くぞエレーナ。」


兵士はエレーナを連れ、浴場へと連れて行ったのであった。




 浴場へと連れられて、侍女に連れられながらエレーナは入っていったのだが、人生で初めて見る大浴場に戸惑いを隠せなかった。


「あらあら。どうかされましたか? 勇者様?」


「……あの……初めて、だから……雨じゃない、身体洗えるところ……」


「でしたら、入浴の作法というものを覚えていただきましょうか。」


「……う、うん……」


エレーナは困惑しながらも、侍女たちに身体を洗われ、背中を流された。


生まれて初めて味わう温かい湯の感覚。


そして人生で初めて使うことになる石鹸。


12歳にして学ぶことが増えていったエレーナなのであった。




 エレーナは髪を梳かされ、身綺麗になった自分の姿を鏡で見て、固まっていた。


「いかがですか?」


「…………なんか……私じゃないみたい……」


「そうでしょうか? それが高貴たる御方の常識かな、と。」


「いや、あの……私、バリバリの貧民なんですけど……いいの? こんなことして。」


「当然でございます。貴方様は世界を救われるのですから、これくらいはしておかないと信用もなにもないでしょう?」


「……分かった……早く慣れるようにする……」


エレーナは新しい服を着せられて、感触に戸惑いながら部屋へと連れられた。




 慣れない綿製の服、人生で初めて、いや一般庶民でも経験するか分からない煌びやかな部屋、そしてフカフカのベッド。


エレーナは落ち着く島もなかった。


初めてすぎる感覚に、終始エレーナはソワソワしていたのであった。


数分後、ノックがされる。


初めての経験に、思わずエレーナは身構えた。


何せ、エレーナにとってのノックは「死」に等しかった。


ずっと箱の中で生活をしていたのだから。


「!? 誰!?」


「エレーナ、夕食の用意ができたぞー。」


「え……? へ? ゆ、夕飯??」


「まったく……なんだと思ってたんだよ……ほら、行くぞ。」


エレーナはノックをしてきた兵士に連れられて、大食堂へと向かっていった。




 着いたはいいのだが……エレーナは初めて見る食器に目を見開いて固まっていた。


「……どう使うの、これ……」


「ああ、それはだな……」


と言われてエレーナは説明を受ける。


とりあえず戸惑いながら食べると。


「……美味しい……」


そう呟いたと同時に、バクバクと次々に口に運んで行ったのであった。


エレーナの王宮生活は、まだ始まったばかりなのであった。


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