第5話

『オラオラ! どうした威勢がいいのは最初だけじゃねぇか!』

 女にしては低めの声が聞こえてくる。見ると複数人の女パーティが剣を構えて触手に襲い掛かっていた。

 確かにビキニアーマーを纏っている。が、それ以上に目につくのは全員ガチムチマッチョであるということである。

 全員筋肉ムキムキってどういうことだよおい。このおっさんも筋肉質なはずだが、それがかすんで見えるくらいガチムチである。

 で、そんなマッチョ女軍団がザクザクと剣で触手を斬り裂いている。嘘だろおい、普通簡単に斬れないんだけど俺達触手って。

『くっ……に、人間なんかに負けないッ!』

 苦し紛れに触手が女の1人を捕らえる。ここから反撃開始か、と思った。が、

『ふんッ!』

捕捉された女が気合を入れると筋肉が膨らみ、触手を引きちぎった。嘘やん。

『ば、馬鹿な!?』

『この程度でアタイらを捕まえようなんて甘いんだよ!』

――そこから先は、それはもう酷いもんだった。あっという間に触手は討伐され、女軍団が素材回収の為解体作業に入っている。


「話が違うじゃねぇか」

「話が違う、とは?」

 蹂躙劇が終わり、絞り出した俺の言葉におっさんが首を傾げる。

「いや何あのアマゾネス軍団?」

「美形で巨乳でしょう?」

「巨乳っていうか、胸囲が凄いな全員」

 胸筋が半端なかった。柔らかさの欠片も無い……いや、ゴムみたいな弾力性はあるだろうが。

 普通さ、ビキニアーマーでも激しく動けば   揺れるよね? ぷるんって。ぷるんぷるんって。全く揺れが無いのよ? どういうことなの?

「あの美しい筋肉……思わず見惚れてしまいますよ……」

 ネタで言ってるのかと思ったが、おっさんの顔はマジだった。「ほぅ……」なんてため息漏らして顔赤らめてるよ。普通にキモい。

「お前がそれでいいならそれでいいや」

 何だろう、俺が間違えてるんだろうか。もうわからない……人間のこと、全くわからない……!


『んー♪ 結構いけるな歯ごたえがあって』

 んで一通り作業を終えると、火を起こして焼いた触手を食っていた。いや噛み切るってどういう顎してんのアイツら? 火通した所で『歯ごたえ』で済まないよ?

『そういやこの触手、貴婦人たちの間で張り型として売れるらしいんだってな』

『マジかよ。飯と夜のオカズにもなるとか超便利じゃね?』

 親父くせぇ事いうとガハハとこれまた親父くせぇ笑い方する。お前ら触手を何だと思ってるんだ。

『んじゃアタイも一本貰っておこうっと。リーダーも一本いりやす?』

 その言葉にリーダーと呼ばれた女が「馬鹿野郎!」と怒鳴る。

『アタイは旦那一筋なんだよ! アタイに触れていいのは旦那だけ! そんなフニャチン触手野郎なんか使うわけないだろ!』

『おっとそいつは失礼』

 そう言ってパーティからからかうような口笛が上がると、リーダーと呼ばれた女が顔を赤くして睨み付ける。


「は、はぅぅ……」

 気づくとおっさんが何か照れ臭そうにしていた。キモかった。

「いやなんでお前照れてんの?」

「いや、実はあのリーダー……私の妻でして……」

「あれお前の嫁かよ!?」


『ったく……お前のせいで旦那思い出してムラムラしてきた。今夜旦那抱くから、帰ったら解散な』

『えー酒場行かないんすかー?』

『誰のせいだと思ってるんだい!』

 そう言うとアマゾネス達は帰還の準備を始める。その様子に更におっさんが「おぉ……」と青褪めた顔をしている。これ相当搾り取られるんだろうなぁ。

「えっと、今夜はお楽しみ?」

「あの様子では、今夜では済まないんじゃないかなぁと。明日で済めばいいなぁ……」

 そっとおっさんの肩を叩いた。まぁ、生きろ。

 映像の方を見るとアマゾネス達は撤退したようでもう誰もいない。知り合いの触手はもう欠片も残っていなかった。

「……あー、なんかもうどうでもいいって感じだよなこれ。おっさんも大変そうだし、もう帰りな」

 そう言って俺は触手を振って魔法陣を地面に設置する。

「これは?」

「転移魔法陣。乗ればダンジョン入口まで帰れるから、そこの汚いおっさん達連れて帰って」

「て、転移魔法!? そんな物まで使うのか……」

 おっさんは転移魔方陣に驚いた様子を見せるが、すぐに果ててる奴らを抱えて帰る準備を始めた。

「何か、色々と申し訳ありませんでした……」

「まー良いって事よ。今夜頑張れよ」

 俺の言葉におっさんが苦笑しつつ、魔法陣に乗ろうとした――瞬間だった。


「――や、やっとここまで辿りついたぁ!」


※次で終わりです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る