第4話
「えーとですね、その前に前提として、冒険者になりたいという女の子が圧倒的に少ないという事もありまして。一発当たれば大儲けですがその一発なんてほぼ無い上キツい、汚い、危険ということで」
「あー……まぁ、そりゃそうだよなぁ……」
「そうですよ。オークやゴブリンに食われる――それも性的な意味で、という話を聞いて『それでもなりたい』なんて子は少ないんですよ」
おっさんの言葉に俺は「まぁそりゃそうだよなぁ」と頷く。
昔は生活の為というより生き残る為だった。戦って勝たなければ人間共は滅亡するような時代だったんだから女の子だろうがなんだろうが、戦力になりゃ駆り出されるわけで。そりゃ今の平和な時代じゃ込み入った事情でも無けりゃ普通は非力な女の子がなるわけないよなぁ。
「もっともオークやゴブリンだって好きで襲ってるわけじゃないんだけどなぁ」
「そうなんですか?」
「アイツら圧倒的にオス種が多くて種の保存が大変なんだよ。ほっとくと絶滅の危機に陥るから、何とか子孫残そうって。人間の見た目は正直好みじゃないって嘆いてたぞ? 正直ヤる気なんてなれないけど『これはメス……俺はメスとするんだ……』ってメス種とするっていう妄想でカバーしてるらしいわ」
「えぇ……あんま知りたくなかったそんな真実……」
「まぁアイツらも大変なんだよ……」
俺達みたいに「人間の女の子? そりゃ興奮しますとも!」って性癖だったら問題なかったけど、アイツら亜人達はそれぞれに美的感覚が違うからなぁ。
「それよりも、そんなに冒険者の女って少ないの?」
その言葉におっさんが頷く。思い返してみれば女の冒険者なんて、ダンジョン暮らしになってから全く見ていない。
「比率で言うと8:1.8:0.2です」
「ちょい待ち。8が男ってのは解るんだが、女が1.8?」
「いえ、0.2の方です」
「少なっ!? いやそれより1.8って何だよ!?」
「男性でも女性でもない、というカテゴリです」
ちょっと何ってるかわかんないんだけど。
「え、何? そんなカテゴリあるん?」
「ありますよ? 最近の冒険者の間でのアイドル『あっきゅん』ことアイン君は見た目がとても愛らしいのですが、一応生物学上では男の子なんですよ。ですがその可愛らしい見た目から『性別:アイン』と区別されておりまして……御存知ない?」
「御存知あるわけねぇだろ」
おっさんが「常識ですよ?」みたいに言うが知らねぇよ。何だそれ人間こえぇ。
「んー……まぁ、それでも0.2はいるんだろ女? そいつら連れてこいよ」
「そ、そう言われましても……女性の冒険者たちはランクが皆我々より高い実力者揃いなんですよ……連れてくる、なんて恐れ多くてとてもとても……」
「ランク? んな実力にランクなんてつけてんの?」
「えーとですね、冒険者達は活躍実績や実力などからEからSのランクをつけているのです。皆Eからスタートして、そこから上がっていくのですが最高ランクのSともなるとそう簡単にはなれるものではありません」
「ふーん。ちなみにその女冒険者ってどんな感じ? 後お前らもついでに教えてくれる?」
「女性冒険者は現在1つのパーティのみで、構成員は皆Sランクです。ちなみに我々はその下のAランクでして」
「え、お前ら上から2番目の実力者なの?」
その割に俺に瞬殺だったじゃねぇか。んーそれなら普通に蹂躙できるんじゃねぇかなぁ?
「あ、そういやそのパーティは今別のダンジョンに挑んでいる筈でして」
「ん? 何処のダンジョンよ?」
おっさんが教えてくれたダンジョンは心当たりがあった。
「あー、そのダンジョンって俺の知り合いの触手がいるはずだわ」
「触手さんの知り合いの触手!? あ、あっちのパーティは大丈夫だろうか……見た目麗しい美女揃いだから、心配ですよ」
「ちょっとその話詳しく」
おっさん曰く、その女冒険者たちは皆美人で巨乳揃い。更に露出の多いビキニアーマーを纏っているそうな。『その方が動きやすいから』というのが理由らしい。くそ、なんで俺のとこに来なかったんだ。
「まぁそいつ俺より少し弱い位だけど……今挑んでるんだっけ? 丁度いいからどうなってるか見てみるか」
俺はそう言って魔力を空中に放つ。何もない空間に映像が映し出された。
「え、何ですかこれ?」
「通信用の魔法。知り合いとこうやって近況報告してるんだわ」
「モンスターってこんなことできるんですか?」
「え? 人間できないの?」
そう言うとおっさんが「ちょっと何言ってるかわかんない」って顔をする。なんでも手紙くらいしか連絡手段が無いらしい。うわー人間不便だわー。
「んー確かここがアイツのいる階層の筈なんだけど――っと、丁度交戦中っぽいな」
向こうの映像と音声が届くまで、少し時間がかかる。ぼやけた映像がはっきりしし始めて、何やら騒がしい音が聞こえ始めた。
『いやああああああああああああああ!』
甲高い悲鳴が響き渡った。
――聞き覚えのある、触手の声だった。
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