第44話
あの後僕は、健さんに連絡をして海水浴場に将成を迎えに来てもらった。
迎えに来てもらったのは、将成の所為である。救急車を呼ぼうとしたところ将成に止められてしまったからだ。
体調が思わしくないのに救急車に乗りたくないという
「……見つけてくれて助かった。ありがとう奥村くん」
「いえ、僕は、何も……」
病院に着き、無事に将成は病室へと運ばれていった。
ひとまずは安心だ。
健さんが休憩スペースに控えていた僕に缶コーヒーを持ってきてくれた。彼が入院
「……将成な、この間、余命宣告されたんだ」
健さんが缶コーヒーをひと口飲む。
「最近調子が戻らなくてな。検査したら、もう永くないって言われたんだ。小さい頃から散々大人まで生きられないと言われてきていたから、なんとなく、覚悟はしていたんだが……。いざ現実を目の前にすると、どうしたらいいのか……わかんねえな」
健さんの声は震えていた。当たり前だ。愛している家族の命の宣言をされたのだ。それも、将成も自分で聞いたという。
将成は本当に強いひとだ。そして、弱さを見せないひとだ。
あの海に行ったのは、現実逃避をしたかったからだろうか。いや、きっと家族に自分の弱さを見られたくなかったからだと僕は思う。
「…………あと……どのくらいなんですか……」
僕は気丈を装って健さんに問う。健さんは言い
「保って、あと半年だそうだ」
あと半年。それを『長い』と思うのか、『短い』と思うのか。僕はこの時、どちらに感じただろうか。感情がぐちゃぐちゃでこの時は何も考えられなかった。
恐らく、険しい顔をしていたからだろうか。健さんが僕に微笑んだ。
「……大丈夫だ。少なくとも、成人はできる。小さい頃からの夢だった大人になることは叶えられるんだ。本当に、それだけは良かったと思う」
健さんが僕を見た。その表情は、将成によく似ていた。
「君と、君のお母さんのおかげで将成は今日まで生きてこられた。将成を見捨てないでくれて、本当にありがとう……‼」
そう言って健さんは頭を下げた。僕はどうしていいのか分からず挙動不審になってしまった。けれどここで僕が「そんなことはないです」と否定してしまえば、それは母さんの今までも否定することになる。
僕は、頷くことしかできなかった。
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