第21話

『明日の夕方から肝試しをやろうと思います! 参加したいひとはこちらまで!』


 クラスのグループトークにメッセージが届いた。

 丁寧に場所のURLのリンクまで張ってある。

 グループトークにメッセージが入ったとき、僕は当初、行く気など微塵みじんもなかった。

 予備校の勉強をしている方がなんならマシだったし、クラスメイトに馴染みたいなんて考えたこともなかった。

 ただ、次に来たメッセージに、僕の心は少なくとも揺らいだ。


〈奥村、さっきのクラスの肝試しの話、一緒に行かないか?〉


 ああ、やっぱり君はずるいひとだ。

 天川くんに言われてしまったら、僕は、行かざるを得ないじゃないか。


 クラスの肝試しに行くと家族に言うと、父さんは「そうか......!!」と謎に涙ぐみ、お母さんは「気をつけてね」と笑顔で、美魚に至っては「かいくん、ふりょうになっちゃったの?」なんて、夜に遊びに行く僕を心配してくれた。


 いや、不良じゃないし。


 父さんが涙ぐんだのは、きっと僕が、やっと学生らしいことを始めたからだろう。


(……心配させてたんだろうなあ)


 最近になって、親の気持ちがわかるようになってきた。

 これもひとえに、天川くんのおかげである。


「よ!」

「こんばんは、天川くん」

 肝試し当日、僕たちは待ち合わせをして、集合してから目的地へと向かおうと決めていた。

 天川くんは黒いカッターシャツにすらっとしたジーンズを履いていた。くそぅ、何を着てもになる彼に劣等感を抑えきれない。対して僕は、この間の花火大会と同じような地味な格好であった。

「俺肝試しとか初めてなんだけど。奥村はそういうの大丈夫だったか?」

「多分。ホラー映画とか全然見れるし」

「そっかー。奥村は強いんだな!」

 強いとかじゃなくて、単に興味がないんだよ。そう言いそうになったが、天川くんに褒められて嬉しくなる。


 目的地に着いた途端、天川くんが「うげっ」と固まった。僕は「どうし、」と途中まで言って、天川くんが固まった理由を理解した。


「あらぁ、将成ぃ。奇遇ねぇ?」


 さおりさんが、いたのである。

 彼女は僕たちのクラスメイトではないはずだ。では何故このイベントに参加しているのか? 天川くんは本気で分からないという顔をしていた。

「お前、なんで……」

「GPSで。」

「はっ――!?」

「ウ・ソ」

「はぁっ?」

「……冗談よぉ。に呼ばれたの。『暇してるなら来ない』かって」

 ストーカーじゃないわよ、と訂正されたが、僕にはストーカーにしか見えない。

 ユリ、さんはクラスメイトのひとりだろう。友達を作ることを避けていたせいで記憶は朧気おぼろげだが、確かクラス委員の子だ。記憶力は良い方だけど、どうしてもひとに関しては記憶力は乏しい。

 それだけ僕はひとを信じてこなかったんだとこの瞬間思った。

「お前なら、俺のGPS知ってても可笑しくないんだよ」

「健くんから教えてもらってるけど、今日は使ってないわよぅ。信じてくれないの? 将成ひどぉい」

「…………教えてもらってるんだ……」

「……なぁに、何かご不満?」

「いや、なにも……」

 僕は思わず彼女から目を逸らした。

 不満とかではない、ストーカーだと思っただけだ。心の中で呟くのは許してくれ。


 じゃあ始めるぞー! クラス委員の男子から号令が掛かる。

 僕たちは話を止め、彼のいる方へととりあえず向かった。

「ここにクジがあるからこの中から1枚取って、同じ番号のひととペアになってください!」

 ペア。なるほど、平等だな。天川くんと一緒になれる確率は低いけれど、まあ、いいだろう。僕はクジを1枚引いた。

 引いた番号は『8』だった。

「全員引きましたかー?」

 この場にいるクラスメイトはおよそ15人程度。もしかすると奇数組かもしれない。僕は面倒だなと思いつつ、同じ番号のひとを探す。

「……『8』番のひと、いますか?」


「――なんであんたが『8』番なのよ」


「え……?」

 僕の耳は、もしかして壊れたのかもしれない。その瞬間は、本気でそう思った。

 僕の後ろで不機嫌そうに、僕のペアとなる人物が立っていた。


 僕のペアは、だった。

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