第20・5話
まさか、
キスをされるだなんて思わなくて、
思わず俺は、驚いた。
将成はこの日、覚悟を持って花火大会に臨んだ。
理由は、海音だ。
恋を自覚してしまった以上、将成の性格ではこのタイミングを逃すわけにはいかなかった。
健から聞いた、花火の良く見える境内に行き、ベンチに座る。
花火が上がるまであと少し。
「奥村――」
――好きになって、ごめんな。
将成の言葉は、花火の音にかき消された。
聞こえて、いただろうか?
海音の表情は泣きそうだった。
瞬間、海音の顔が近付いて、
キスをされた。
同じ気持ちなんだと言われた。
好きだと、海音の口から聞けた。
それだけで幸せだった。
だけど、と将成は思い止まる。
自分には「未来」がない。
長く付き合っているこの
そんな状態の人間が誰かを好きになっていいはずがない。
いや、それは逃げだ。
ただ単純に、幸せにできる自信が無いのだ。
それでも海音は「そんなこと考えなくていいんだよ」と、優しく諭してくれる。
彼の想いに答えるために将成が出した条件はひとつ。
一日限定の恋人。
将成の中で、恋人を作るという選択肢はなかった。
それはずっと以前から覚悟を持って決めていたことで、その決意が揺らぐことは一度としてなかった。
だから、妥協策として持っていたのが「一日限定」の恋人。
これならいつ自分が消えてもいいという結論に至ったのだ。
海音はそれを承諾してくれた。それだけで、将成の心は救われた気がした。
告白を受けてから二日経った昼。
将成はいつものように定期健診を受けに病院に来ていた。
珍しく佐央里は顔を見せていないらしく、心のざわつきがない。彼女が絡んでこないだけでこんなにも違うのか、と再認識した日だった。
定期健診が終わり帰宅する途中、クラスのグループトークにメッセージが届く。
『明日の夕方から肝試しをやろうと思います! 参加したいひとはこちらまで!』
丁寧に場所のURLのリンクまで張ってあった。タップして内容を開くと、そこそこ怖そうな場所だった。肝試しか、と将成は思った。
(奥村誘ったら、来てくれるかな……)
将成は海音のトーク画面に移動し、肝試しの件を伝えてみる。
返信がきた。内容は「いいよ」のひとことのみ。
それだけでも嬉しかった。
肝試しの日、海音と一日だけの恋人になれること。
それが将成にとって大切なことだった。
海音の恋人という肩書きが、将成を生かすのだ。
将成は未だそれを自覚していない。
けれど、海音といることは将成にとって生きる糧となる。
(楽しみだな~)
将成は気分よくその日を終えたのだった。
肝試し当日に予想もしてない事態が起こることなど知らずに。
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