デート②

「着きました。」




渋い老紳士の声で、俺は息をつく。やっと解放される。結局零はあれから一言も喋らなかったし、楓恋とも気まずいままだ。楓恋に限っては、帰国してから一言も喋っていないため、これからのことを思うとますます気が重たくなる。それに関しては零が何とかしてくれることを願うしかない。昔は何にも気兼ねせずに話してたのに、3年経って急に大人っぽくなった顔つきと雰囲気に、顔を合わせると戸惑ってしまうのだ。




「ほら。行くわよ」




執事の声が聞こえて十数秒たってから、零がリモコンを操作し、リムジンの扉を開ける。その間、何かを期待するような目で俺を見ていたのだが、何だったのだろう。零と目があった瞬間からの体感は1分ほどだったことは別の話だ。




「私が!エスコートしてあげる」




『私が』の部分をやけに強調して、リムジンの外から手を伸ばす。リムジンは地面との段差があるので、転ばないようにということだろうか。特に女性とかは靴の事情もあって怪我しやすい気がする。




......そこまで考えて、零が怒っている理由に気がついた。俺にエスコートして欲しかったのではないか。なにせ俺は零のしもべ(?)。帰国後からの態度は違和感があるが、エスコートするのは当たり前だと言いたいのだろう。




「ごめん!次からは俺がエスコートするから」




零は途端に顔を朱に染めた。




「別にそんなこと言ってないし!勘違いしないで」




はいはい...。お決まりのセリフ。あの頃も零はこんなだった。外見が変わろうが、中身はほとんど変わっていない。その本心を受け取れてこそ、彼女の隣を歩けるというもの。




「分かったよ。...じゃあ、ほら」




零の手を借りてリムジンを降りると、まだ席に座っている楓恋に手を伸ばす。改善するなら早い方がいい。これは両親からの受け売りだ。




「.........あり...がと」




ためらった様子で陣の手をとり、耳をすまさなければ聞き取れないような声で呟く。顔は、俯いているため、銀髪が目元までかかって見えない。本当に前が見えているか心配になるほどに。




そう思った矢先、ガッという音と共に、リムジンから


楓恋が投げ出される。前に体重が乗っているため、止まることはできない。そのまま前に倒れ込み、俺は対応する間もなく、彼女を抱き抱える形になってしまった。




「......っ...あの...えと」




「.....................」




なんだとぉぉお!滑らかな銀髪が揺れ、花のようないい匂いが俺の鼻腔をくすぐる。さらに鼓動が速くなり、両手がおもいっきりピンっと伸び、やり場をなくす。俺の格好はいわば前習えである。俺の心臓は鼓動の最大稼働を越えているんだ!仕方ないだろ!そして、何も言わない楓恋はどういうことだろうか。テンパってしまうのは分かるが、体勢を変えるどころか、更にもたれ掛かっているように感じる。それでも重く感じないのは、俺の精神と心臓が限界を越えているからなのか。




「ハッ......ごめんなさい...」




楓恋は、今まで意識が飛んでいたかのように、真っ赤な顔を合向ける。顔の赤みが消え、気持ちの整理がついたと思ったのか......完全に演技だと分かるのだが...。だが、これから追い討ちをかけるのは流石に人の所業じゃない。




「ううん......ぜ、全然...」




俺もタガが外れかけの頭を必死に働かせ、かすれ気味の声で振り絞った。


大丈夫だ...とりあえず返せた...。


心臓が今でもバクバクしている。こういうことには弱いんだよ。耐性がないからな...。


そのまま零の後ろに隠れる楓恋は、すっかりハァハァと息を切らしている。耳まで真っ赤になった顔を見て、あらぬ期待をしてしまいそうになるが、相手は絶世のハーフ美少女である。そんな期待は早く捨てた方がいい。俺みたいなモブが相手になるわけがないのだ。潤んだ目で抗議するような仕草を、零の後ろでする姿はそう思っていても惹かれてしまうほど扇情的で、魅力的だった。




ふと彼女の前を見ると不機嫌そうな零が俺のことを睨んでいた。一瞬で上気していた頬と背筋が氷ったが、覚悟を決め、そのまま頭を深々と下げた。






その一部始終を見ていたもう一人の少女はまるで鬼のような形相をしていたという。







ご読了ありがとうございます!よければハートと評価よろしくお願いいたします。

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