戦いの序章
窓の外には見慣れた街の風景が流れている。
運転席には専属の執事らしき初老の男性。ゆったりとした運転で安全に気を遣っているのが分かる。これだけなら安心感がとても感じられる車内なのだが、平然としていられない理由が2つ、現在進行形で発生している。
一つはこの車が縦に長く伸びたいかにも高そうなリムジンだということ。外車だと思われるシルエットは通りすがりの人が思わず3度見されるほどの威力である。窓はマジックミラーになっているようなので外から見られる心配はないのだが、ちらちらと感じる視線はいつも乗っていない限り慣れないもの。高級そうなシートの心地と相まって、迂闊に体を動かすことができない。体を動かせない理由はそれだけではないのだが。
関係してくるのは2つ目の理由。
見たところこのリムジンは運転席、助手席、後ろの広いスペースがあるタイプのようだ。先ほどいった通り運転席には初老の執事がいるのだが、助手席には誰もいない。
そして今この車内にいるのは、執事、俺、零、楓恋の4人である。
もうお分かりだろうが、俺は今後部座席で、二人の美少女に挟まれている状況なのだ。しかもゼロ距離で。反対側の席もあるのに何故向こうに座らないのか、この空気で聞けるやつがいるなら見せてほしい。普通ならとても羨ましいシチュエーションなのだが、いかんせん二人とは昔からの幼馴染なので、ここでいやらしいことを考えていることがバレると俺はそのまま車から引きずり下ろされかねない。冷や汗が額を流れる。
「あの......さ。今日の私の服どうかしら」
左を向くと少し下に零の顔があった。身長差があるため、顔と顔の距離は30センチほどあるのだが、近いものは近い。自信のなさそうな表情でおずおずと聞いてくる零は、昔と全く違い、思わず顔が熱くなった。
軽く胸元の開いた黒のワンピースに、白のポーチをかけている。客観的に見てもとても似合っていると思うが、これをそのまま伝えても良いだろうか。いや、ここで躊躇ってはいけない。中途半端な答えは零の機嫌を損ねるだけだ。
「結構似合っていると思う。モデルみたい」
しっかりと零の目を見て伝える。すると、彼女はすぐさま顔を隠すように後ろを向いた。顔は隠せても真っ赤になった耳は隠せていない。そういう俺もかなり顔が赤くなっている自覚があるのだが。
「そう...ありがと」
一言だけ、あまり興味のないように言った零の口元が、僅かに緩んでいるのが見えた。
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