これからはライバル

「仲直りはできたみたいだし、約束を決めよう」


一通り2人が泣き終わった後、その場で見守っていた真樹也が言った。2人は未だ抱き合っており、そのまま首だけを真樹也に向け、キョトンとして表情を浮かべている。


「状況の整理だよ。零は陣君のことが好き。楓恋も陣君のことが好き。それでいいね?」


その場を見ていた者なら察して当然の事実だが、実の父親に知られていることに気づかなかった零と、家族にそれを察せられていた楓恋は、なんとも認めなくないような顔をする。二人とも顔を背け、長考の時間を用したが、結局は言い逃れできないと確信し、小さく頷いた。


「で、楓恋は陣君を好きでいることはいけないと言っているわけだが、零はもちろん楓恋が陣君のことを好きでもいいんだろう?」


「あっ...当たり前よ!その代わり遠慮なんて...っ...ひくっ......しないから」


若干潤んだ目と、涙がつたった跡のある小鼻をすすりながら、楓恋を正面に捉えて宣言する。先の言葉を否定して、落ち着いたのはどうやら楓恋だけのようだ。

楓恋は零様に否定されても妥協することはできた。好きになることを認めてもらうというより、好きになることが許されないという明確な理由を探していたという訳である。

だが、零がこうなったら本当に妥協しないことは、楓恋が一番分かっている。なら、受けてたつのが妥当だろう。


「零様がこう言ってくださるのなら、私が遠慮することはありません。私も主人と従者の関係に囚われないで、本気で陣君を落としますけど、よろしいですか?」


認められていきなりの挑発だが、零は怒らなかった。むしろ楓恋と目線をぶつかり合わせて喜んだ。今まで従者として遠慮することも多々あり、なかなか楓恋と本気でなにかを勝負するということはなかったため、その新鮮さに内心わくわくしているのである。


「当たり前よ!というわけで早速なんだけど、今まで楓恋の気持ちに気づいてあげられなかった謝罪の気持ちとして、明日のショッピング、楓恋もついて来なさい」


「いや、でも...二人きりだって楽しみにしていましたよね...?」


「そんなことないし!別に楓恋が来ても陣を夢中にさせるのはあたしだから問題ないし!」


「ふっ......またそんなことを言って。どうせ直前になってあがり症発動するでしょうに」


そんなやり取りを前日に交わし、それぞれの思いが詰まった日曜日。あんなに挑発していたが、お互い緊張でうまく思考ができない状態でデートの朝を迎えた。


そして今、『高山』の表札が張られている玄関の前で、3人の少年少女が、なんともいえない空気を醸し出しているのであった。

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