二人の壁
先が見えないほどに長い廊下に、パチンっと乾いた音が響いた。
本気ではないものの、それなりの力が加わったことが分かる音。形式はよくある姉妹喧嘩と思われるが、二人の父親は止めようとしない。
「なんで言わなかったの……」
その言葉に返答はない。
先ほどまで目を見開き固まっていた楓恋の顔はもう確認できない。
シャンデリアの逆光で口元以外に影が下りている。そして、唯一見える口元からも彼女の表情は読み取れなかった。
聞こえなかったの言い訳ができないように、間髪を入れずに叫ぶ。
「どうして言ってくれなかったの!!!」
確かな怒りが込められていた。もう無視を決め込むことはできない。覚悟を決したように、楓恋は顔を上げた。その頬には、赤くなった手形と液体が乾いたあとがあった。
「言わなかったんじゃなくて!言えなかったんですよ!!私の気持ちを考えたことありますか?!陣君は毎日零の家に遊びに来るし、零はいつも陣君といると笑ってるし、楽しそうだし!!気づかないわけがないでしょ!!」
膝に手を置き、前かがみになる。胸を上下させ、息を吐く。零はその剣幕に驚嘆し、瞬きすら忘れていた。
「毎日毎日毎日毎日。陣君のことを考えないように考えないように。そう思うたびに、あぁ好きだなぁって諦めるんです。いつでもかっこよくて、優しくて、お人好しで、…………零と一緒にいて…………っ……」
そこにはもうお淑やかなメイドなどいなかった。ただ恋に悩み、全力な、普通のか弱い少女がいた。膝をつき、泣き崩れる。しわも汚れもないロングスカートなど気にせず、我を忘れて泣きじゃくる。
そして、零も膝をつき、何も言わずに楓恋を抱きしめた。心の距離などないと言わんばかりに。力強く、ぎゅっと。
そのまま一言
「ごめんね…っ……」
その様子を満足げに見ていた父親によって場は取りまとめられた。日をまたぐと、2人はいつも通りだった。が、確かに二人の間に壁はなくなっていた。彼女らの父、新堂真樹也の提案によって、陣が二人の恋に振り回されることなど当人は知る由もなかった。
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ご読了ありがとうございました。前話とは違った書き方にしたつもりなのですが、どうでしょうか。これからも改良を重ね、読みやすい作品にしていきますので、今後ともよろしくお願いします!
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