確執
咄嗟に向かいの部屋に飛び込んだ。扉に背を預け、腰を下ろして座り込む。
落ち着いたのも束の間、イライラが再燃する。
なんで自分の主人に向かってチョロインなんて言えるのよ!!
口走ったのは私だから私が悪いんだけど……。もうちょっと慰めとかしてくれてもいいじゃない!
いつもみたいに優しくしてくれたらいいのに……。
思えば昔からそうだった。陣の話となるとだいたい言い合いになっていた気がする。
普段はクールで無関心のように見えるが、冗談を言ったり、一緒に笑ってくれたりする普通の少女なのだ。決して仲が良くないわけではないはずなのに、陣の話になると急に当たりが強くなるというか、そっけなくなる。そんでもって、二人とも言い合いになったことを一晩で忘れてしまうから、未だにその理由がわからない状態ってわけ。
っていうかそもそもあいつが悪いんじゃない!デートって聞こえたからってその場で繰り返す?普通!そこは聞こえなかった振りしてドキドキしてればいいのよ!陣らしく。
未だに頬を膨らませている彼女の脳はだんだん陣への不満で埋め尽くされていった。
これはまた別の話だが、当の本人は風呂に入っているのも関わらず、寒気が急に押し寄せたという。
「……っ。旦那様お帰りなさいませ」
唐突に扉の向こう側から楓恋の焦った声が聞こえてきた。ここの扉は木製のため、外からの音がよく聞こえるみたい。
お父様が帰ってきたのね。いつもはもっと遅いのに…今日は休みだったのかしら。
「ああ。ただいま。久しぶりの日本の学校はどうだった?」
それはもちろん楽しかったわよ。全然しらない子たちばっかりだったから、多少、緊張したけれど。多少。ほんとは直接話したいけど、さっきのことがあった後すぐに出て行ったらあの子になんて言われるかわかんないし。
「そうかそうか。ところで……」
「楓恋は我慢することにしたのかい?」
「留学前から思っていたんだが......留学に行ったら何か変わるかと思って、聞いていなかったね」
我慢?なにか我慢しているようには見えなかったけど。
「…っ。なんのことでしょうか?」
「分かるよ。君が赤ちゃんの頃から見てきたんだ。家族のような存在。家族に隠し事はなしだ」
そう。楓恋は生まれた時から新堂家の家族だった。
楓恋の父、母ともに本家の執事、メイドを長年務めている。
彼らはメイド・執事第一号らしく本家で知り合い、結婚し、子を産んだ。誰かに仕える立場の人間が共働きで子を産むのは厳しいことだが、厚い信頼のおかげで、楓恋は生まれた。
ちなみに私と同じ年に生まれたのは本当に偶然である。
なのでお父様がそう言うのなら楓恋は何か我慢しているのだろう。
長年私に仕えてきた訳だから仕えることについての不満ではないだろうし……。
再び思考に入ろうとしたところで、突然意識が引き戻された。
「もう一度聞こう。楓恋は陣君を諦めるのかい?」
…………え?
…………………………え?
楓恋が……陣を……??
いや……何かの勘違いよ……そう…きっとそう。
「…だって……。どうしようも…ないじゃないですか。零様が好きな人を私も…なんて許されませんよ……」
こんな掠れるような声で、弱弱しく話す彼女を、私は見たことがない。
いつも凛として、淡々とものをいう。
けれど、たまに穏やかな笑顔を向けてくれる。
ちょっぴりいたずらなとこもあって。たまに揶揄われて。
あまり顔に出さないけれど、喜んでいるときは頬が緩んで。悲しんでいるときには目じりが少しだけ下がって。
そんな楓恋が好き。楓恋のことならなんでも知ってると思ってた。なんでもじゃなくても、誰よりも。
いつの間にか私の怒りは別の意味に変わっていた。
「.......楓恋はそう言うけど、好きになったものはしょうがないと思うけどね僕は。……なあ?」
そう言われた時、私はもう扉の取っ手を掴んでいた。
あと一歩はお父様が押してくれた。
もう躊躇はなかった。
扉を開け、涙目を張った少女と対面する。
____________________________________________________________
ご読了ありがとうございました!
もし面白いと思って頂けたなら、ブクマ登録と応援よろしくお願いいたします。
次に繋げる形の投稿になってしまって内心震えている(((φ(◎ロ◎;)φ)))
改善点や修正点など、
アンチコメントよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます