俺、恐怖す
異性の幼馴染と聞いて、人は何を想像するだろう。
恋、片思い、両想い、男女の友情。たいていの人は想像した中にこんなキーワードが入っているのではないだろうか。だが、幼馴染にはそんな甘ったれたものはない。陣は小学生半ばでそう理解した。幼馴染というよりしもべだ。毎日零のしたい遊びに付き合わされ、拒否することもできずに一日が終わる。陣はそう理解せざるを得なかった。突如何者かに誘拐され、誰もいない教室で呼び出した本人を待っている今の状況が物語っている。
誰も通らない廊下から、時々点滅する蛍光灯の光が差し込んでいる。グラウンドからは野球部やサッカー部の掛け声が響いてくる。
日直の仕事を終えて帰ろうとした時の一瞬。数人の男に抱えられ、運ばれた。いくらお嬢様といえど普通に犯罪はよろしくないと思うが、彼女に放課後まで突っかかれなかったことを考えれば妥当かもしれない。クラスのやつらとはそれなりに仲良くしていたと思うし、俺と幼馴染だということは隠しておきたいのだろう。そんな風に諦められるくらい、壊れてしまった俺の心を誰か直してくれないだろうか。
「零が来たらガツンと言ってやる!」
「何を?」
椅子に縛られたままの体がビクンと跳ねる。
声の方向にゆっくりと顔を向けると、まるで初めからそこにいたように、噂の美少女がドアの隙間から顔を覗かしていた。数滴の冷や汗が額に流れる。彼女の眼を見つめながら、この状況を打破できる方法を考える。
やめてくれよ...。俺は何かと意気込んで何もできないタイプなんだよ。せめて意気込みだけでもさせてくれ...。
少し揺れる長く艶やかな黒髪と少し頬が緩んでいるあどけない表情を見て、不覚にもドキッとしてしまった。いかんいかん。中身はあの悪魔だ。そう自分に言い聞かせ、動揺を振り払う。
「いや…。なんでもないです。」
僅かに俯き、目を合わせないようにする。なるべく服従しているように見せるのもコツだ。その方が機嫌がよくなる……。
ほんと惨めだな俺。
「そう。じゃあ早速本題に入ってもいいかしら。」
零は少し残念な表情を見せてから、その感情を振り払うように言った。
「陣……今…彼女はいるの?」
答えを怖がるような、縮こまった態度でそう言った。
「え?…………………………………………」
「………………………………………………」
誰もいない教室に静寂が訪れる。
予想もしていなかったからなのだが、しもべとしては、彼女は邪魔なのだと納得して答える。
「……いないけど。」
どうやら正解らしい。零の顔に花のような笑顔を浮かんだ。この笑顔はもっと普段から出せていたらなぁ。そう思ったが、なんか昔の零と違うような……。
「じゃあ…。その……明日買い物に付き合ってくれないかしら。」
「……分かった。」
荷物持ちなら慣れている。ただ、零の横を歩いていると、通行人にへんな勘ぐりをされてしまうのでそれは避けたいところだ。
「……デート…。」
「!?!?」
思わず目を見開いてしまう。俺は耳がいい方なので、ぼそぼそと喋っても聞こえてしまうのだ。鈍感系主人公ではないと自負できるくらいには。
「えっと……今なんて?」
「ハッ!?……………何でもないわよ」
「俺にはデートって聞こえたんだけど?」
そう言ってすぐ後悔した。どうせ何かの勘違いなのに、無駄なことを言って零を怒らせるのは良くない。思った通り、彼女は顔を真っ赤にして頭を俯けてプルプルしている。耳の先まで真っ赤だ。これは怒鳴られるな、と覚悟し、目をつむった。
「………っ……」
「えっ……?」
零は来た方向に踵を返し、一目散に走っていった。てっきり一通り怒鳴られたあとに、なんで私があんたなんかに時間を使わせなきゃならないのよ、なんて言われると思ったのだが。なぜあんなに全速力で逃げて行ったのだろうか。混乱している頭を落ち着かせる。
一通り落ち着いた後、ふと自分の手足を見て気づいた。薄い望みに賭け、手足をじたばたさせてみる。ピクリとも動かない。……一体誰が縛られた手足の縄を解いてくれるのか。
それに気づいたときにはもう叫んでいた。
「おおーい!だれかああ!!」
3分待っても誰も来る様子がないので、誰もいない廊下に向かって叫び続けた。
「おおおおーーいい!!」
「おおおおーーいい!!!」
「だれかああああああ!!!!」
「だれかああああああ!!!!!」
何度も叫ぶが一向に助けが来る様子はない。ふと思ったが、手足を縛る必要はあっただろうか。
結局、零の使用人が助けに来たのはあれから二時間後のことであった。
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