嬢、再会す

あと数週間の命を削り、セミがけたたましく鳴いている。


朝から高校生は憂鬱になるだろう土曜授業の日。


陣もその例外ではなく、通学路を歩きながら嫌いな教師と学校の悪口を脳内でループさせていた。なぜ「休日」なのに、歩く足を「休」ませてはいけないのか、と。


そうはいっても陣はまだ楽な方だが。

というのも陣の家から高校までは徒歩10分で通学できるが、中には自転車で1、2時間かかる生徒もいる。休日の朝6時くらいに起きた後の登校は地獄だろう。半目で朝飯を食べながらうとうとしている様子が浮かばれる。きっとその生徒たちの学校の評価はグンと下がったに違いない。


そんな他愛もない考察をしている内に、無駄にでかい門へ辿り着いた。柱一つ一つが輝いている。学校の看板だからだろうが、これを見るたびに、校内の臭くて汚いトイレを思い出してしまうのは俺だけだろうか。

靴を履き替え、薄暗い廊下を通り、教室へ向かう。階段を昇りきると、冷たい風を感じた。教室の向かいにある職員室から冷気が流れているようだ。いつもここを通るたびに思うのだが、なぜ職員室は暖房や冷房が自由に使えるのだろうか。生徒の多くはそのことに抗議しているが、結局教職者の特権だかなんだか言ってうやむやにされる。この問題は20年後にも解決されない予感を感じ、未来の高校生を悼んだ。



教室を覗くと、もうほとんどの生徒が登校を済ませていた。騒がしい。教室の側の廊下にまで聞こえている。いつも通り騒がしいのだが、今日は何故か一層騒がしい気がするのは気のせいだろうか。




「おっすー!今日も浮かない顔してんねえ」




その違和感が何なのかと考えていると、後ろから聞き慣れた声。


竹内幸太郎_____中学生からの友達だ。


少し低めの身長に可愛らしいルックス。普段から手入れされていると分かる艶のある茶髪を揺らす彼は、人懐っこく、だれとでも仲良くなれるような性格をしている。


幸太郎のような男子のことを犬系男子というらしく、特に女子の先輩に人気があるが、本人はそういった話をすべて断っているらしい。理由はよく知らないが。




「おっす。俺はいつも通りなんだが…。」




「お?鈍感な陣君でもさすがに気付いたかい?」




俺が言わんとしていることを察して、意気揚々と話し出す。



「そうなんだよ陣君。ついにこの高校にも転入生がくるらしいのだよ。しかも女子2人!留学生!これは期待せんと何をするか、と朝から盛り上がってるってこと。」




口調は謎だがそういうことらしい。転入生というのは高校生にはやはり気になる対象である。そんな高校生の陣も多少気にはなるが、実のところそこまでじゃない。理由はいくつかあるが、そもそも関わることがないだろうということが大きい。


陣は入学当初から帰宅部であり、仲良く遊ぶ友達も幸太郎と数人のみ。同じクラスになったら話は別だが、陣のクラスは他のクラスより人数が多い。つまり、転入してくるのなら他のクラスになるのが定石ということだ。そのことに気付いている生徒も多く、クラスがいつもと少しだけ違う雰囲気になっていたということだろう。




そのことを幸太郎に話すと露骨に残念がっていた。ホームルーム前の少し静かになった空間で思い出す。


やがて担任のホームルームが始まる。諸連絡を済ませ、いつもなら職員室に戻る担任は教室の入り口の扉の窓を見つめている。アイコンタクトともいえる動作をしていたため、一瞬転入生の話が頭を過るが、すぐに追い払った。結論は出ているのだ。このクラスには来ない。そう自己完結しようとした時、突然担任が前を向いて言った。




「もう7月になりましたが、この時期に転入生が来ています。」




生徒は声を挙げた。陣は目を見開いたままだ。このクラスにくる合理的な理由がない。それはそうだろう。




合理的な理由などのだから。




「どうぞ。入ってきてください」




その少女は堂々と教室に入ってきた。38名の見知らぬ生徒の視線をもろともせずに、腰ほどまで伸びた艶やかな黒髪をなびかせている。そして後に続くようにもう一人。


前者と同じ制服をまとい、日本では見慣れない肩まで伸ばした銀髪と通った鼻筋、薄い翠眼が、明らかに他者とは違う異彩を放っている。


俺は見開いた眼を更に限界まで見開いた。額に冷や汗を流しながら。


多数の羨望やら感動やらが混じった視線をもろともせず、教壇につく。


そして、教壇の前に仁王立ちしたまま彼女はいった。




「海外への留学から戻ってきたわ。新堂零よ。これから同じクラスになるからよろしく」




おお、と生徒からは声が挙がる。


きっと彼らには自己紹介に聞こえただろう。だが俺は違う。丁度真ん中の席にいる陣の目から目線をぴくりとも外さない。


目を少し吊り上げ鋭い眼光を向けられた陣は、まるで蛇に睨まれたかえるのようであった。


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