或る少女の回想(3)

 気が付いたら私は幸せの中にいた。周囲は全て真っ白で、どうして自分がそんなところにいるのかわからない…………ただ一つわかるのは、自分が神様の膝の上で眠っていたということだけだ。


「ひゃっ!?」


 それに気づいた瞬間に思わず私は奇声を上げてしまった。それは自分の状態が神様への不敬なのではないかという恐れの感情と、その体勢に幸せを感じて維持したいと願う感情がぶつかり合った結果だったのだと思う。


 ともあれ目を覚ました私はそのままの体勢で神様から事情を説明された。自分が死んだことを思い出した時には流石に体が震えたが、すぐにそんなことはどうでもよくなった。私の機が済むまで神様が寄り添ってくれるとおっしゃってくれた時には嬉しさで体が震えた。


 それを先ほど同じ恐怖の震えと誤解した神様は、勇者にしたことで私を不幸にしたのではと考えてしまったようだ…………むしろ逆で私は申し訳が無かった。


私なんかが勇者になることを望まなければ神様はもっとふさわしい人を勇者に選べていたかもしれない。あんな魔物になんて殺されることもなく、こんな風に神様の手を煩わすことは無かったはずだ。


 私が勇者になったのは唯々私の為…………神様と離れたくないというわがまま。そのわがままのせいで神様の心を痛めるわけにはいかず、私は必死で自分に勇者を続ける意思があるのだとアピールした。


 ただその際に熱意が溢れすぎて私はつい死んでも神様に会えるからと口にしてしまった。その事はすぐにたしめられて神様から釘を刺されたが…………私はもう死ぬことが怖くなくなっていることにそれで気づいた。


 もちろん神様を悲しませないためにも死なないための努力はする…………けれど、死を恐れて躊躇うことはもうないだろう。


 それから神様は言葉通り私の気が済むまで寄り添ってくれた。詮索せんさくするのも失礼かと思って特に会話することもなかったが、私は神様と同じ時間を過ごすだけで満足だった…………だけど幸せな時間は唐突に終わることを私は知っている。


 その時間を終わらせたのは別の神様たちだった。どこからともなく現れたカノとヒョウカという二柱の神様も勇者となった私のサポートに加わるらしい…………けれどそんなことよりも私は神様の名前が知れたことが嬉しかった。


ナツキ様!


 他の二柱の神様同様聞いたこともない名前だったが、神様が嘘を吐かないことは他の誰よりも私が知っている…………ああ、むしろ知られていないことこそが喜ばしい。この世界で私だけがナツキ様の名前を知っているのだとしたらそれはどれだけ特別な事だろうか!


 それから私は元の世界に戻って指示された作業をこなした。蹂躙された村の中を巡るのは少し心が痛んだが、その時の私は精力に満ち溢れていた。死んでしまった村の人達に祈りを捧げながら、私は旅の為に必要な物資を集めて行った。


 ああ、だけど…………結局私はまた殺されてしまった。進むことが出来たのはほんの僅かな距離。村では小さな子供が遊びに出かけるような範囲だった。


 ナツキ様の指示が間違っていたとは思えない。

 運が悪かったのだとも思えない……………結局は、私に力が無かったのがいけないのだ。


 だから私は力が欲しいと願う。


 あの人を、落胆させないような力が。

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