或る少女の回想(2)
その日の夜に私は久しぶりに心地よい気分で寝床に着いた。ここ数日はずっと気絶するように眠りについていたからそれは村が襲われる以来の話だった。その心境の変化はもちろんあの声が聞こえるようになったからだ。
最初は話に聞いた魔法使いかと思った。大きな街には魔法を教える学校があって、そこでは遠くの人と意識で会話できる魔法も教えていると聞いたことがあったからだ…………けれど声はそれを否定して、自分は白き神の従属神なのだと私に告げた。
普通ならそんな馬鹿な話と信じなかっただろう。しかし私はそれが嘘ではないとすぐに分かった。なぜならその声を聴くとそこに込められた感情も不思議とわかったからだ…………嘘どころか、心の底から私を案じてくれる気持ちが伝わってきた。
それは冷え切った私の心を温めて、生きる気力を取り戻させた。それがなかったら私はきっとあのまま朽ち果てていたことだろう。
けれど神様もただ落ち込んでいる私を励ますために声を届けたわけではなかった。私の村が魔物に滅ぼされた元凶とも言える存在である魔王、それを倒す勇者となるべき相手を探していたのだ。
当たり前だが私はそれを聞いて
私がその考えをすぐに覆したのは神様が無理強いしなかったからだ。それは相手の意思を尊重するという神様の単なる配慮だったように思う。しかし私が駄目でも別の相手に頼むだけだからと神様が口にした時…………見捨てられたと私は思ってしまったのだ。
気が付けば私は勇者をやる事を宣言していた。その急な私の
私はただ、神様と離れてしまうことだけが怖かった。
だってほんの少し前に私の全ては無くなってしまって…………その空白を埋めてくれたのが神様なのだ。例え安全な場所へ案内されたとしても、そこに神様がいなければ今の私には何の意味もない。
そんな私を神様は本気で心配したようで、私を
そして私は生まれて初めて嘘を吐いた。神様を納得させるために、他の誰かに自分と同じ思いをさせたくないのだと勇者になる理由を作った。本当は他の人達なんてどうでもいい…………今の私には神様以外に大切な存在はいないのだ。
その神様に嘘を吐くことは心苦しかったけれど、それ以上に勇者になれない事で神様と離れてしまうのが嫌だった。
最後まで躊躇しつつも神様は私が勇者になることを認めてくれた。その瞬間に私と神様の間に何か繋がりが出来たようで、とても満たされたような気分になった。
それから私は神様から今後の目的を聞かされた。どうやら村から少し離れたところに白き神の残した神具というものがあるらしく、それを回収することが最初の目的だった。
きっとその神具が近くにあったから私は神様に声を掛けて貰えたのだろう…………そう考えると私はとても幸運なのだと思えた。
それからは神様に指示された物を集めるために村を回った。村の家々はほとんど倒壊していたが、幸いなことに火は放たれなかったので無事な物資はまだある。残された物を見ると殺された皆の顔を思い出して辛かったけれど、必要なものを集め終えて比較的損傷の少ない家で夜を明かすことにした。
それから眠るまで神様と話したいところだったが、残念なことに神様がこちらの世界に干渉できる時間には限りがあるらしい。
その貴重な時間を私の為に使ってもらえることに喜びを感じつつも、やはり私は残念だった。
神様の声が聞こえなくなって私は寂しさを覚えた…………けれど不安は無かった。明日になればまた神様は私に話しかけてくれるだろう。その時までに今日で終えられなかった旅の準備を終えて神様に褒めてもらおう、そう考えながら私は心地よい眠りについた。
次に目を覚ましたのは激痛の中で…………きっと私はすぐに死んだ。
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