第6話 思い通りにならなくても、可愛い②
穏やかな陽光を照り返す春の湖面は、時折思い出したように風を受けて小さな波を生み出している。
「おー…ホント、なんにも変わってないな。――すごい。綺麗だ」
馬を繋いでから、十五年前から特に変わった様子のない湖に近づき、イリッツァは感嘆のため息を漏らす。
「十五年って、長いなぁって思ってたけど――大自然からすれば、瞬きするくらいの短さなのかもな」
「確かに」
後ろからやってきたカルヴァンも、隣に立って湖面を眺めて静かに同意する。
穏やかで心地よい静寂が訪れた。野生の鳥が遠くを羽ばたいていく物音と、どこかにいるのであろう虫の微かな鳴き声。抜けるような青空を映し込んだ湖面は、鏡のように美しく、夢のようにただ静かに揺蕩っていた。
するり、とごく自然に、大きな手が、イリッツァの細く嫋やかな繊手を取る。包み込むように握られた手に、視線だけでカルヴァンを見上げるも、その雪空を映し込んだような瞳は、まっすぐ湖を眺めたまま、物を言うこともなかった。
ふ、と吐息だけでほほ笑んで、イリッツァも視線を湖面に戻す。
長かった。――本当に、長かった。
もう二度と、こんな、心穏やかな時間を過ごせる日は来ないだろうと、ずっとずっと、覚悟していた。
今、手をしっかりと握っている、この唯一無二の存在と、同じ景色を見て、同じ音を聞いて、視線を交わし、言葉を交わす――ただそれだけのことが、どんな奇跡よりも尊いことを、イリッツァは確かに知っていた。
転生などという奇跡の存在を信じるはずもないカルヴァンは、なおのことだろう。
同じ景色を見て、同じ気持ちを共有できる――その幸せを噛みしめて、二人は静かに、懐かしい光景を堪能していた。
しばらく湖面を眺めた後――昼も近づいてきたし、ということで持ってきたランチボックスを広げる。
「お、よかった。思ったより崩れてない」
馬で運んできたため、少し不安だったか、どうやら中身は無事だったようだ。広げた中身は、数種類のサンドイッチやスコーン、いくつかのジャムと切り分けられたフルーツだ。
「それはよかったな」
カルヴァンは軽く同意しながら、その辺にあった枯れ木や草を集めて、視線ひとつで火を点ける。愛馬で持ってきた簡易鍋一式を火の上に組み立て、湖から汲んできた水を沸かし始めた。しばらくしたら、持ってきた茶葉で、温かい紅茶を淹れるつもりだろう。
「ホント、便利だよな、火の魔法。…俺も、せっかく生まれ変わったんだから、火属性になりたかった…」
「やめてくれ。ただでさえ手が付けられない強さなのに、これ以上戦闘に特化するつもりか」
地水火風の魔法の中で、戦闘において最も直接的な攻撃力を有するのは、言わずもがな火属性だ。剣の届く範囲であれば最強、というイリッツァが火属性の魔法まで手にしてしまったら、魔法の届く範囲であれば最強、という称号まで手にしてしまう。
「お前だって、解毒だの治癒だの、日常生活でも使える魔法はいくらでもあるだろ」
「まぁなー」
言いながら、火にかけられた鍋に軽く手をかざして光を生み出す。ぱぁっと淡く光ったそれは、解毒の魔法に他ならなかった。
「まぁいいや、食べよ」
「あぁ」
広げたシートの上に座り込み、ランチボックスの中身を出していく。
イリッツァは食事の前の祈りを小さく捧げてから、サンドイッチに手を伸ばした。
「あ、これ俺が作ったやつだ。すぐわかる」
「?」
「ベーコンが太い」
「なるほど」
ふ、と軽く笑みを漏らしてから、カルヴァンも手近なサンドイッチに手を伸ばす。食事前の祈りなど捧げるはずもなく、そのまま豪快にかぶりついた。
イリッツァもサンドイッチにかぶりついた後、咀嚼しながらその断面を見る。自分が切ったであろう不揃いかつ少し肉厚なベーコンを見て、苦い気持ちに軽く目を眇めた。
「ってゆーか、ほんと、人は見かけによらないよな」
「は?」
もぐもぐ、と口を動かしながらカルヴァンが疑問符を上げると、呆れた薄青の瞳がこちらを向いていた。
「どっちかっていうと、お前、侍らせた女に家事とか全部やらせてそうじゃん」
「……お前の中で俺のイメージがどんな風なのか、よくわかった」
半眼で呻きながら、口の中のものを飲み込む。どうやら、『女の敵』といつも言われているのは、冗談でも何でもなく心からの感想のようだ。
「普段のあの振る舞いで、実は家事万能とか、お前、ほんと、ギャップありすぎ」
「そうか?」
「これで女癖と性格さえ悪くなければ、本当に文句ない男なのに――…」
「オイ。何気に酷くないか」
ツッコミを入れながら、最後の一口を口の中に放り込む。
十五年前まで一緒に暮らしていた兵舎の男部屋――『奇跡の部屋』と馬鹿げた呼び名がついていたその部屋を、奇跡たらしめていたのは、実はリツィードではなくカルヴァンの手によるものだと知っている者は、おそらく同室だったリツィードだけだろう。誰に言っても、普段のカルヴァンの素行の悪さゆえに、一人も信じてくれなかった。
「誰かの世話になる方が面倒だ。だいたい、落とした女なんかに身の回りのことなんか任せたら、自分が特別だと勘違いして、嫁気取りで私生活まで干渉されかねない。そんな自ら面倒を呼び込むようなこと、進んでするわけないだろう」
「うわぁ…最低だ…」
言いながらイリッツァも最後の一口を食べ終え、新しいサンドイッチを手に取る。今度のは、均等な大きさで薄く綺麗にスライスされたベーコンと薄焼きの卵が収まっているから、カルヴァンが作ったものだろう。
王都の路地裏で過ごしていた期間はもちろん、教会に引き取られた後も、誰かの世話になるなんて御免だといって、カルヴァンは誰の手を取ることもなく独りで生きる術を磨き続けた。食事も掃除も洗濯も、生きていくうえで必要なことは全て自分で行う。兵団に入ってからもそれは変わらず、リツィードと同室でもこまめに掃除や洗濯をしていたので、あの奇跡の部屋がずっと奇跡の状態のまま保たれていたのだ。半面、リツィードは、大貴族同等の生活水準を約束された屋敷で育ってきた。そこに一緒に住まう国の宝たる聖女が滞りなく日常を過ごせるように、屋敷の中には当然のように頻繁にお世話係が出入りしており、その筆頭がリアナだ。基本的に身の回りのことは誰かがやってくれるのが当たり前だったので、リツィードは料理も洗濯も殆ど何も出来なかったと言っていい。
時々、カルヴァンが女の所から深夜帯に帰って来ては、腹が減ったと言い出して兵舎の食堂を使って夜食を作るときに、何度か一緒に食べさせてもらったことがあるが、男の料理らしく目分量で豪快に適当に作られているそれは、どうにも手が止まらないほど美味で癖になる味だったことを覚えている。
「別に、お前も、身の回りのことが面倒なら人を雇ってもいいと言っているだろう。あの昔から口うるさい老婆は勘弁してほしいが、それ以外なら、別に」
「いや…それはいいって。確かに俺、上手ではないけど――別に、出来なくないんだし」
もごもごと言いよどむように言いながら、自分が作ったよりも綺麗で旨いサンドイッチをほおばる。
清貧を愛すイリッツァは、幼いころからダニエルに教えてもらって一通りの家事が出来るようになった今生でまで、身の回りの世話を焼いてくれる誰かを雇うことは気が引けていた。
だが――それだけではない。
(ヴィーは、私生活の領域に他人が入り込むこと、絶対嫌がる)
どこまでも過保護なカルヴァンだ。人を雇ってもいいと何度も言ってくれているし、それは心からの言葉だろう。やっぱり雇うことにした、と言ったところで、ふぅん、と頷くだけで気にも留めないはずだ。彼の収入を考えても聖女の収入を考えても、身の回りの世話をする人間を一人二人雇ったところで、苦しくなるような生計ではない。むしろ、聖女ともあろうものが自ら家事をするなどと言語道断だと青ざめる国民の方が多いはずだ。
だが、本質的に、カルヴァンは他人に私生活に干渉されるのを嫌う。
人を雇ってもいい、というのも、カルヴァン自身が朝早くに家を出て夜遅くに帰ってくるような生活を繰り返しているからだ。一日の中で自分がいない期間であれば、誰かを雇い入れてイリッツァの生活を快適に保つことも目をつぶる、というだけだ。もしもカルヴァンが、一般的な家庭のように、朝も夜も家族と十分な時間を取ることが可能な生活リズムで生活していたとしたら、自分が家事を全て引き受けて、絶対に人など雇い入れない。それは、金の問題ではなく――彼が、己の私生活に他人の手が入ることを嫌うからだ。
己がいない時間帯は、イリッツァの生活だ。だが、己が屋敷にいる間は己の生活だ。同棲開始の時に、人を雇い入れてもいいが日中で必ず帰すようにしろ、と厳命されたのはそういう背景だろう。
本質的には、誰にも何にも干渉されたくないカルヴァンが、イリッツァのために譲歩しようとしてくれているのはありがたいが――洗濯にしろ掃除にしろ、いくら日中にそのすべてを済ませるとはいえ、何者かが屋敷に入り込んでいた痕跡を消すことは不可能だ。きっと、この他人の気配にひどく敏感な男は、帰宅すればその痕跡を目ざとく見つけ――ほんの微かに不機嫌そうに目を眇めるだけで、何も言わずにおくのだろう。
それが分かっているから――イリッツァは、人を雇うことはしたくなかった。
激務で日々疲れて帰ってくる彼が、ほんのわずかでも、気を緩めることが出来なくなる要因など、作りたくない。屋敷にいるうちは、とにかく居心地の良い空間で、誰に気兼ねすることなく、リラックスして過ごしてほしい。
口に出して責められることがないからこそ――彼が、その言葉を飲み込んでしまうと知っているからこそ、絶対にそれだけはしたくなかった。
「まぁ、俺も、あのリツィードがまさか家事をするようになるとは思わなかった。包丁なんて握ったことなかっただろう」
「…うるせー」
「このベーコンも、味があっていい」
くく、と笑いながら新しく手に取ったサンドイッチを眺めて言う。おそらく、イリッツァが作ったサンドイッチなのだろう。
「お前の手料理を食べられるようになるなんて、十五年前の俺に言っても信じないだろうな」
「悪かったな。どうせ、剣以外の刃物の扱いは下手くそだよ」
ぶ、とむくれた表情で手元のサンドイッチにかぶりつく。カルヴァンが作った薄焼き卵が絶妙な塩加減で、悔しいくらい旨い。
今朝も、早起きをしてサンドイッチ相手に四苦八苦していたところ、少ししてから起きてきた寝起きの悪いカルヴァンは、まだ若干の眠気の残る瞳でイリッツァの様子を珍しいものを見るかのような顔で観察していた。しばらくして、彼女の必死な様子にくっと喉の奥で嗤った後、おもむろにキッチンに入って来たかと思うと、家に残っていた食材を適当に見繕い、その場でサンドイッチの具になりそうなものを昔のようにどこまでも適当な目分量で作り、サンドイッチづくりを当たり前のような顔をして手伝ってくれた。イリッツァ一人だったら、薄焼き卵を作るなどという発想はなかっただろう。今日のランチの具材が豪華でバリエーション豊かになったのはまぎれもなくカルヴァンのおかげだ。
「いやしかし今朝のあれはよかった。髪を束ねてエプロン付けて必死に料理を作ってるお前は最高だった」
「は、はぁ!?」
「健気に料理してる嫁なんて、最高に可愛いだろう。しかも作ってるのは俺のための昼食。『これでいい?』って上目遣いでソースの味見を要求された時はやばかった。寝起きの働かない頭で、よくあの場で襲わなかったと自分を褒めたい。ソースなんかよりお前を食べたかった」
「い、いいいいい意味わかんねぇ!」
ぼぼぼぼっとイリッツァの頬が一瞬で熱を持つ。完全にオヤジ丸出しの発言をしたカルヴァンは、イリッツァの反応を楽しそうにニヤニヤと眺める。
「み、見んな!」
ぱっと帽子を取って、顔を隠す。はらりと収められていた銀髪が散って、陽光にきらめいた。くく、とカルヴァンは低く笑って手を伸ばし、さらりとその癖のない銀髪に手を伸ばす。
「残念だ。珍しく、お前のうなじが見放題だったのに」
「は、はぁ…!?」
「お前、いつも髪下ろしてばかりだろう。今朝のポニーテールもなかなかそそったが、男装しても可愛いってどういうことだ。美人は何しても美人だな」
「っ……!」
イリッツァは帽子に隠れたまま息を詰める。覗いている耳が赤いので、おそらくその頬も同じ色に染まっているのだろう。
しばらくその色を堪能しながら指先で銀髪を弄んでいると、ほんのりと桜色が残った頬のまま、ちらり、と帽子の下からイリッツァの薄青が覗く。
「…か…髪…短くても、いい、のか…?」
「は?」
「うなじ…とか……今日も、ボーイッシュな格好もいいとか、言ってたし…」
「……あぁ…言ったな、そういえば」
厩の主人相手に嘯いたことを思い出す。
「昔――髪が短くて背の高い、すらっとした美人連れてるとこみたことあるし…」
「?」
イリッツァの言葉に、視線をめぐらして記憶をたどる。――が、心当たりが多すぎて誰のことを指しているのかわからない。
「よく覚えてるな、お前」
(俺ですら覚えていないのに)
心の声を口に出すと、また女の敵だのなんだのと罵られそうだったので、後半は胸中で呟くにとどめる。
「…休日で、教会に礼拝に行く途中で、宿屋街の方から歩いてくるの見た」
「あー…」
それは間違いなく自分だろう。リツィードが休日教会に行くのは朝だったはずだから、朝帰りの場面をしっかり目撃されたことになる。
「なんだ、嫉妬か?」
ニっと笑って揶揄うと、これ以上ない呆れ顔が返ってくる。――久しぶりに見た。リツィードを思い起こさせる表情だ。
「阿呆か。お前の女癖の悪さもよく知ってるし、そのトラブルにも何回も巻き込まれてるんだぞ。面倒事の代名詞だったそれに、どうして嫉妬なんて可愛い感情が抱けると思うんだ。どんだけ能天気だよ、お前」
「くくっ…なるほど、手厳しいな」
婚約者の過去の爛れた女関係を知っても、怒るどころか心底呆れた顔をする女は、なかなかいないだろう。思い通りの反応を返さないイリッツァに、苦笑を漏らして肩を竦める。
(こいつが嫉妬なんかしたら、最高に興奮するんだけどな)
元親友という関係性は厄介だ。絶対に彼女が嫉妬などしないことを知っているからこそ、一度くらい見てみたいと思うが、おそらくそれは叶わぬ夢なのだろう。彼女の口から直接的な愛の言葉を囁かれるのと同じくらい、荒唐無稽な夢といって差し支えない。
「いつもだったら気にも留めないんだけど――礼拝が終わって、帰り道に、兵団長のお遣い済ませようと思って文具屋に寄ったら、リリカの兄ちゃんにヴィーのこと相談されたから、やけに覚えてる。なんでこんなに真逆の女の人を同じように口説けるんだろう、って呆れてた」
「文具屋――あぁ、それはさすがに覚えてる。半年以上続いた珍しい女だった」
「――――――待て、その前のスレンダー美女のことは覚えてないのか」
帽子から顔を出し、ひくり、と頬を引きつらせてツッコミを入れられるが、肩をすくめて流す。覚えていないものは覚えていない。
イリッツァは、不機嫌そうに少しだけ眉にしわを寄せた後、はぁ、とため息を吐いて指先で己の銀髪を軽くつまむ。
「これから夏だし、鬱陶しいから切ろうかな、と思って」
「は?」
「ナイードの田舎じゃ、結婚前の女が短髪なんて――っていう風潮だったから、意味もなく伸ばしてたけど。でも王都じゃ、若い女の子は結婚前でも髪短い人多いじゃん。っていうか、そもそももうすぐ結婚するわけだし。なら、夏になるし暑いし手入れも面倒だし、お前も気にしないならいっそバッサリ――」
「ダメだ」
食い気味に、有無を言わさぬ口調で。
カルヴァンは、しっかりとした意志を持った声音でその申し出を却下した。
「――え。なんで」
意外だったのだろう。イリッツァはぱちぱち、と薄青の瞳を瞬いてカルヴァンを見た。そこには、眉間にしわを寄せて、不機嫌そうな顔の婚約者がいる。
「ダメだ。絶対ダメだ。髪を切ることだけは許さん」
「へ…?で、でも…お前、別に、髪が長い女の子が好きってわけでもないだろ?」
そうでなければ、過去に目撃した朝帰りの場面とつじつまが合わない。あの時の女性は、男性並みに髪が短かったから、当時の王都ではかなりとがったヘアスタイルだったので、酷く目を引いたのを覚えている。
基本的に過保護でイリッツァを溺愛している自由主義者のカルヴァンが、イリッツァがやりたいと申し出たことに異を唱えるのは非常に珍しい。イリッツァは困惑した表情で真剣な顔をしている婚約者を眺めた。
「違う。"お前"が髪を切るのがダメなんだ」
言いながら、カルヴァンはその大きな手を伸ばしてイリッツァの長い銀髪をさらりと指で梳くようにして手に取る。
「…っていうか、気づいてないのか」
「???」
手に取った後、呆れたようにつぶやくと、カルヴァンは大きく嘆息する。疑問符を上げるイリッツァを見てから、面倒くさそうに口を開いた。
「基本的に、俺と一緒にいるとき、ずっと髪を触られてることに気づいてないのか?」
「へ?」
ぱちぱち、と白銀の睫が何度か繰り返すように風を送る。
カルヴァンの言葉を頭の中で反芻し――
「――――あぁ。確かに」
屋敷の中で、他愛もない会話をする時も。夜寝る前、カルヴァンの腕の中にいるときも。
言われてみれば確かに、一緒に暮らすようになってから――いや、もしかしたら、それより前も――やたらと頭や髪を触られていることが多い気がする。
「なんで?」
「――…なんで、って…お前な…」
きょとん、と無邪気に聞き返されて、カルヴァンは渋面を作って呻く。
「お前の髪の手触りが好きなんだ」
「……?」
「柔らかくて、絹みたいで――永遠に触っていられる」
言いながら、それを証明するかのように、さらりと銀髪を辿るように指を這わせた。
「髪が短くなったら、こんな風に触れないだろう。堪能できる面積が減る」
「め、面積――…」
「こうしてキスすることも出来ないしな」
言いながら、手にした銀髪の一房を唇に持って行って、唇を落とす。当たり前のようにされたその行為に、パッとイリッツァの頬が桜色に染まった。
「っ…ちょ――屋外では、しないって――!」
「は?唇以外のキスはノーカウントだろう」
「っ…!」
「っていうか、人気がないんだから、今日は屋外でも許されるだろ」
「!!!!?」
ずざっと焦って後退るが、カルヴァンは余裕の表情でイリッツァとの距離を詰める。
「ちょ、待っ――う、嘘だろオイ!?」
「嘘じゃない」
言いながら髪を辿っていた手をいつの間にか後頭部に回して、ぐっと引き寄せる。にやりと笑んだ灰褐色の瞳が、いつの間にかすぐ近くにあった。
「~~~~~っ!」
この目をしているときのカルヴァンは、何を言っても聞き入れないことを知っている。
イリッツァは視線だけで誰もいないことをしっかりと確認し――覚悟を決めて、ぎゅっと瞼を閉じたのだった。
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