弱者の気付き

 ぼくは予備教室に行く前に校舎裏へ向かった。

ぼくがきたのを見つけると、進藤グループの奴らは

文字通りニヤァと笑った。

 またグループの人数が増えたな。ぼくはそんなことを考るような軽い現実逃避をしていた。

「いやー久しぶりだなぇ、三浦くぅ〜ん?ぼくは君に早く会いたくて仕方がなかったよ〜」

 嘘だ。昨日会ったばっかりだ。最初は1ヶ月に一回くらいだったのに、この半年でどんどん呼ばれる頻度は上がっていた。

 しかし二日連続は初めてだった。そしてこれがぼくの放課後がこれから毎日潰されることになる合図であることをぼくは知っていた。

 こういう奴らは一度やって咎められなかったことは繰り返す。よって連続で呼び出されても何もなければこれからおそらくほぼ毎日呼び出してくるだろう。

 自分でも痛いほどわかっている。不良のクズさ、自分の弱さ、それを知った上でぼくはやはりもう一度は向かう気にはなれない。

「いやぁ まーた、お小遣い足りなくなっちゃったんだよねー三浦くんが貸してくれると助かるなぁ」

進藤グループに入ったばかりであろう、初めて見る弱そうな男にそう言われる。

 これで出したらもうおしまい。自分の過去を思い出したり、嘆くことも無くそう。

 全てを...

 ぼくは財布が入ったカバンを開けて、財布を取り出す、

 諦めて......

 財布を開ける

 楽になろう......

「何わたしの奴隷に勝手にちょっかいだしてくれてんのよ!」

 後ろから大声が聞こえた。

 ぼくは恐る恐る後ろを向く、そこにいたのは

 自称ぼくのご主人、日野 由里香だった。

「あんたもあんたよ!何勝手に諦めてんのよ!わたしの奴隷ならそれくらいの逆境ひっくり返すくらい、誇り高く生きなさいよ!」 

 何を言ってるんだ?こいつは?ホコリタカク?

無理だろ、生まれつき弱者であるぼくがそんなこと

できるわけがないだろう。

 不良たちも最初は逃げようとしたが、怒られてるのがぼくだとわかると何が起きてるか理解できずその場に立ち尽くしている。

「何勝手になれないって決めつけてるのよ!」

 なんだよ、こいつはエスパーかよ。そんなの、そんなの。

「ぼくだって本意じゃない!!

 そりゃそうでしょ!

不良なんかに金に、時間に、しまいには希望まで奪われて! でも、どうすることもできないんだよ。

 ぼくなんか...じゃ....どうすることもっ!」

 気づいた時にはもう泣いていた。もういろんな感情がぐちゃぐちゃでまとまらない。どうしようも無い。 

 けど一つだけわかるのは今、僕は、僕の本心は諦めたく無いって言っているということだった。

「三浦くぅーん、不良なんか呼ばわりは酷くなーい?」

 ぼくが顔を上げると手をポキポキ鳴らしながらそういう進藤の姿があった。そして何発か殴られた。

 殴られている時、ぼくはただただ情けなかった。

 こんなに言われてもまだクヨクヨ悩んでいる自分自身が。

 すると、急いで駆け寄った日野さんがぼくと進藤の間に滑り込む、

「奴隷の責任はご主人であるわたしの責任よ!

 殴るならわたしを殴りなさい!」

 

 ぼくはそれをみて心が一つに決まった。

 何かが吹っ切れたのを感じた。


「ありがとう、日野さん。いや、日野様。」


 彼女の肩を掴んで自分の後ろに移動させた。

「雑魚がチョーシこいてんじゃねぇぞぉ!」

 右の突きだ。

ぼくの泣いて殴られたボロボロの体はほぼ無意識にそして意識的に動く。右手で上段払い、そしてそこからの逆付きそして、決め手の回し蹴り。それを決めると、進藤はふっとび、校舎の壁にぶつかっていった。


 恐怖は、もうない。


 これをみた他の奴らは驚きを隠せていなかった。

「しっ進藤さんが負けたのは油断したたからだ!油断せず、数で押し切れば負けるわけない!」

おそらく副リーダーであろうやつがそう叫ぶと他のメンバーは納得したようで8人がかりでぼくを取り囲む。

 日野さんは少し離れたところから心配そうにみている。

 全員一斉に突っ込んできた。ぼくは全て的確にかわすと、上段突き、中段蹴り、回し上段蹴り、

下段払いからの逆突き、下段蹴り、裏拳正面打ち、そしてただの中段突き、副リーダー一人を残して、他の全員は痛みで地面に蹲った。そしてぼくは問いかける。

「まだ、やる?」

 すると副リーダーは血相を変えて地面に蹲った仲間たちを置いて全速力で逃げていった。

「ま、まてぇ テメェ許さねえぞ!」

 ふらふらのまま、なんとか声を出した進藤がその男の後ろから怒鳴る。

 しかし彼は止まらない。

 そして他の奴らもふらふらになりながら逃げていった。

 あっけないな。存外。

 これまで怯えたたのがこんなにも弱かっただなんて、思ってもみなかった。

 それもこれも日野さんのおかげだ。

 ぼくは振り返ると彼女に向かってこういった。

「ありがとうございました。ご主人様!」と

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