強者の本音

 わたし、日野 由里香は昔(大体小1くらい)今の性格からは想像ができないほどのヤンチャ娘だった。

 あまり昔のことなのでわたし自身は覚えてないが、母親いわく、女子が頑張って作った泥団子を粉々に砕き、それだけでは満足しないのか、あまつさえその粉々に砕いた砂の塊のようなものを先生の服の中に入れるというヤンチャぶりである。

 その男らしさというかやんちゃというかの行動に自分で言うのもなんだがその頃からよかった容姿のおかげで男子からはなかなか重宝されていた。 

 しかしもちろん女子や先生からの評価はこの上なく低かったし、両親もそのことで頭を抱えていたと言う。

  周りはそれを何度か止めようとしたが、わたしは自分で言うのもなんだが、生まれつきいろんな才にめぐまれていたため、その度頭を使ったり大人を言いくるめたりして、大人から逃げきっていた。時には話を聞かずに怒鳴ってくる人もいたがそんな時は嘘泣きという女子のみが使えるチート技でなんとなく自分を攻めれない空気を作り、なんとか逃げてきた。

「誰が?しちゃいけないって決めたの?校長先生?」

 当時のわたしはこの言葉をよく使っていた。

 なぜしてはいけないのか、それが不思議で仕方なかった。だってそうだろう。この世の中はしてはいけないことが多すぎる。それをいちいち律儀に守って生きるなんて縛られるのが嫌いだった当時のわたしにとっては苦痛でしかなかった。

 まぁ 単純に自分より強い大人に勝つという、達成感やスリルに夢中にになっていたところもあったと思うが。

 

 そんな時にわたしは親の転勤で引っ越すことになった。新しい家に、新しい環境ということもありわたしは期待に胸を膨らまされていた。引っ越しが済むとわたしは家族と一緒にお隣さんに挨拶しに行った。

 その家族は一人子連れの三人家族だった。その男の子はわたしより3つ年上の小学4年生くらいだった。

「はじめまして!わたしは日野由里香です。これからお隣さんだね!よろしくね!」

 わたしは初対面の人にはできるだけ好印象を与えるようにしている。その方が後々悪いことをしてくれる仲間になったり、咎める敵になりにくくなったからである。

「ぼくは〇〇 〇〇。よろしくね。」

 その男の子はありきたりなあいさつをした。

 この男の子、まだわたしを警戒しているなぁ。もう少しいい子を演じようかな

「まぁ わたしのためにせいぜい働いてね。」

 気づいた時わたしはそう言っていた。 

 え?いまわたしなにを言ったの?なんでこんなことを?いや、今はそれを考えてる暇はない!すぐ訂正しないと!お隣さんはこれから付き合いが長くなるかもしれないし第一印象を悪くするわけにもいかない。

 そう思って俯いてた顔をあげると、そこにはわたしの想像してた驚きの顔ではなく、諦めたような、なにかを悟ったような悲しい顔だった。

 わたしはその時気づいた。この子は人にさっきのようなことを言われるのに慣れているとだと。

「なんて顔をしてるのよ。見てるこっちが不快になるんだけど?」

 ちがう!こんなこと言いたいわけじゃない!

なのに言ってしまった。

 そして気づいた。わたしの中で彼はわたしより弱いと思ってしまっていることに。

「ははっ ごめんね。ぼくは昔から人に舐められやすいからなぁ 何かあったらまた言ってね。」

 男の子は悲しい顔を無理やり笑顔に変えてそう笑ってみせた。

 その時、わたしの中で何かが壊れたような気がした。

 気づいたのだ。自分自身のちっぽけさに。

 彼はきっとこんなふうに初対面の人に言われるのははじめてではないだろう。しかも彼はなにも悪くない。けど彼は謝った。今考えれば自暴自棄とも取れるかもしれないが、我慢という言葉をてんで知らなかったわたしにはその姿がカッコよく写ってしまった。今思えばそれがわたしの初恋なのだろう。しかしその男の子はわたしが引っ越してから半年足らずで引っ越していってしまい、今では名前もよく覚えていない。

 しかし少しの間だった彼との時間はわたしがやんちゃをやめる理由を作るには十分だった。

 それからは世の中に縛られながらも真面目に生きることにした。

 そんな時に現れたのだ。中学一年生になったわたしの前に。

 友達の兄である、三浦 殻斗が。

 生まれつきな弱者の風格を持ち、それを受け入れ我慢して生きている人が。

 一目でわかった。この人はあの人と同類だと。そして素直に尊敬した。なぜなら昔あった男の子は諦めていたのに、彼は未だ自分の体質に歯向かおうとしていたからである。それと同時にわたしはそれを支えてあげたいと思った。 

 

 しかし殻斗と喋っているとつい昔の彼と喋っているようでうれしく、なつかしくなってしまい、ヒートアップして行ってしまい、今では奴隷扱いしちゃっていた。

 これからはもう少しは優しくしなければ、そして彼の悩みを解決するのを手伝ってあげたい。

 彼を前にしてその通りの行動を取れる自信はないが。

 

 

 

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